具体的方策に乏しい『国家安全保障戦略』

具体的方策に乏しい『国家安全保障戦略』

現在の我が国の『国家安全保障戦略』は、2013年12月(第二次安倍内閣のとき)に閣議決定されました。

信じ難いことでありますが、それまであった『国防の基本方針』(1957年決定)から56年ぶりに改定されたものです。

56年間、不変のまま維持されてきた『国防の基本方針』の中身を見ますと、

我が国の独立と平和を守るために…
1.国連活動を支持し国際協調をはかり世界平和の実現を期する
2.民生を安定し愛国心を高揚し国家安全保障のための基盤を確立する
3.自衛のため必要な限度において効率的な防衛力を漸進的に整備する
4.侵略に対しては国連がこれを阻止する機能を果たし得るまでは米国との安全保障体制を基調として対処する

…といった類のもので、決定当時(56年前)の国際環境からいえば妥当なものであったのでしょうが、恐ろしいことにその後56年もの間、その進捗状況は全く点検されることなく陳腐化しそのまま放置されてきたと言っていい。

とりわけ、常に変化する国際政治、経済、外交の状況に合わせた具体的な防衛(軍事)政策については触れられていないことから、とても安全保障戦略と言えるような代物ではありませんでした。

それが2013年12月にようやく見直されたわけです。

2003年のイラク戦争、2008年のリーマンショックによって、それまで世界の警察官として君臨してきた米国の軍事力と経済力が相対的に低下してしまったわけですから、日米安保を防衛戦略の基本としてきた我が国が安全保障戦略を見直すのは当然の帰結でした。

現在の『国家安全保障戦略』は、戦略の基本を「国際協調主義に基づく積極的平和主義」としています。

それまでの「日本一国平和主義(ニッポンイッコクヘイワシュギ)」は間違いだったことを認めた点において素直に評価したい。

むろん、ここでいう積極的平和主義というのは「武力を背景にした積極的外交による平和主義」のことであって、憲法9条を積極的に世界に広めよう、ということではありません。

平和とは秩序ある状態のことを言います。

なので、秩序ある状態を維持するために「これからは我が国も積極的に参加します」と世界に宣言したわけです。

そしてこの理念のもとに世界と日本の脅威を、世界の現状から…
①大量破壊兵器の拡散
②国際テロ(非対称脅威)の撹乱
…としました。

とはいえ、『国家安全保障戦略』では、この2つが脅威だとしながらも、その具体的方策については何も表現されていません。

下位計画の『防衛計画の大綱』にもその関連策は示されておらず、最大の脅威に対し具体的施策が全く伴わないというのは戦略としてはお粗末と言わざるを得ないと思います。

例えば台湾有事や朝鮮有事の際、日本国内において発生確率が高いとされる具体的脅威はテロですが、その対策は「情報収集につとめる」という程度です。

情報収集と言っても、ご承知のとおり我が国はテクニカルインテリジェンス、ヒューマンインテリジェンスともに独自の能力を持っておらず、その多くを米国に依存しています。

国のテロ対策は、国民保護計画を策定する地方自治体にとっても密接不可分な問題です。

2021年10月、岸田総理は「国家安全保障戦略」を年内に改定する意向を示しましたが、果たしてどうなるか。