幼稚な非難決議案

幼稚な非難決議案

衆参両院で、ロシアへの非難決議が採択されました。

例によって「力による現状変更は認められない」ことが強調されています。

実に違和感があります。

一昨日に行われた川崎市議会の代表質問でも、公明党さんが「力による一方的な現状変更は断じて認められない」と、勢いよく主張していました。

(朝日新聞じゃないけれど…)だが、ちょっと待ってほしい。

2003年に行われた米国によるイラク攻撃は、完全なる「力による現状変更」でした。

にもかかわらず、日本政府(自公政権)はそれを支持していたではないですか。

ご承知のとおり、中東はペルシャ湾(=アラビア湾)を隔てて、スンニ派の大国サウジとシーア派の大国イランが対峙しています。

ペルシャ帝国の末裔を誇るアーリア系のイラン人はあの湾をペルシャ湾と呼び、アラブの人々はアラビアン湾と呼ぶ。

だから1991年の『湾岸戦争』では、イラン側にもサウジ側にも配慮して「ペルシャ湾戦争」とも「アラビア湾戦争」とも呼ばず「湾岸戦争」としたわけです。

にらみ合うサウジとイランを、ちょうど相撲の行司のような地理的位置で、スンニ派とシーア派の対立をうまく調整しつつ緩衝地帯の役割を果たしてきたのがイラクであり、その指導者フセインでした。

なのに、フセインに対して米国は「大量破壊兵器を隠し持っている可能性がある」と言いがかりをつけて侵攻し、圧倒的な軍事力をもってフセイン政権を崩壊させ、イラクに親米政権をつくったわけです。

その後、大量破壊兵器なんて発見されていません。

これを「力による一方的な現状変更」と言わず、なんと言うのでしょうか。

しかもその結果、過激なイスラム原理主義勢力を勃興させるに至り、かえって中東を混乱に貶めたのは周知のとおりです。

つまり衆参両院の決議はこういうことですか?

「米国が行う力による現状変更は許されるけど、ロシアがやるのは許さない!?」と。

どこまで属米根性丸出しなのか!

川崎市議会でも今議会において同様の趣旨の決議案が提出される雰囲気にあります。

ハイブリット戦の時代の中にあって、西側が垂れ流す一方的な情報によってのみで事の本質を理解したような気になって「ロシアが一方的に悪い」と言い切ってしまう、その怠慢な思考回路が恐ろしい。

ロシアがウクライナに侵攻したのは、1997年から続くNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大を阻止するためです。

歴史的、文化的にも関わりの深い隣国ウクライナのNATO加盟は、どうみてもロシアの安全保障に対する直接的な脅威です。

その意味で、ロシアのウクライナ侵攻を煽ったのは米国(西側陣営)です。

もしも米国が、ロシアに対する冷戦終結時の約束(「これ以上、NATOを東方へは拡大しない」という約束)を忠実に守り、ウクライナのNATO非加盟を堅持し、ウクライナをロシアとの間の地政学的な緩衝地帯としていれば、プーチン大統領(ロシア)にウクライナを侵攻する理由はありませんでした。

だからこそ、ロシアは何度も「ウクライナのNATO非加盟」を要求してきたわけです。

ところがオバマ政権時代にも米国は、ウクライナに親米政権を樹立させるために外交的に画策しています。

2014年にロシアがクリミアを奪取したのは、そうしたことが背景にあったからです。

ウクライナでの親米政権樹立を画策したのは、当時のオバマ政権で国務次官補を勤めたビクトリア・ヌーランド氏です。

そのヌーランド氏が、バイデン政権で再び国務次官補(政治担当)に就任しています。

このことだけでも、プーチンを怒らせ、ロシアのウクライナ侵攻を誘発するに充分です。

むろん、日本のメディア(西側が発信する情報)には、こうしたことは一切報道されません。

今回の事態を招いた最大の要因は、覇権国としての力を失った米国が、なんの戦略もないままにロシアの地政学上の脅威となる「NATOの東方拡大(ウクライナのNATO加盟)」を進めようとしたことにあります。

ゆえにどちらかと言えば、非難されるべきはロシアではなく米国です。

現在開催されている川崎市議会でも、衆参両院同様の「ロシア非難決議案」が提案される可能性があるようです。

そうした幼稚な決議案には、どうしても賛成する気になれません。