アフガニスタン人道危機

アフガニスタン人道危機

イスラム勢力タリバンがアフガニスタンの政権を掌握して半年が経ちました。

しかしながら国際社会からの支援は途絶え続けており、深刻な食料不足のため子供たちを中心に彼の国の多くの人々の命が失われようとしています。

真冬のアフガニスタンはマイナス10℃を下回ります。

厳しい寒さに襲われている避難民のキャンプには大勢の人々が身を寄せていますが、食料などの支援物資がほとんど届いていないという。

栄養失調で痩せ細った子供を抱いた親たちが病院で列をつくる映像をテレビで見ましたが、充分な治療を受けられないまま命を失う乳幼児が相次いでいるらしい。

なかには、幼い娘を裕福な親戚に嫁がせる約束をし、その結納金を前払いで受け取って生活に充てている人すらいます。

国連は、アフガニスタン国民の6割にあたる約2,440万人が食料などの人道支援を必要とし、約390万人の子供たちが栄養失調に陥り、うち13万人が命を落とす恐れがあると警告しています。

その上で、食料、医療、保健分野などの人道支援として今年一年間で総額50億ドル(日本円で約5,800億円)が必要だとして各国に資金の拠出を呼びかけています。

因みに総額50億ドルは、一国に対する支援額としては国連が創設されて以来、最大級の規模です。

なぜ、これほどまでに人道危機が深刻化したのでしょうか。

もともとアフガニスタンは国家予算の約8割を国際支援に依存していたわけですが、去年8月、タリバンが20年ぶりに権力を握って以来、支援が滞ってしまったからです。

とりわけ欧米各国は、かつてのタリバン政権が国際テロ組織アルカイダを匿い、女性や少数派を抑圧したことや、その後も駐留部隊やアフガニスタン政府に対するテロを行ったことなどを問題視し、タリバンに資金が渡らないように支援を停止したり制裁を行ったりしています。

一方、タリバンは数々の公約を掲げ「変化」をアピールしたものの、国際社会の承認を獲得するには至っていません。

すべての者に恩赦を与え、国内すべての勢力が参加した政権をつくり、イスラムの教えの範囲内で女性の権利を保障し外国の脅威とはならない、等々の公約は未だ実行されておらず、事実上、反故にされたかたちです。

国連によれば、タリバンの復権後、前政権の関係者や兵士、あるいは外国部隊の協力者など少なくとも100人以上が殺害され、うち3分の2以上はタリバンによって報復として殺されたものとみられています。

タリバンが発足させた暫定政権は、閣僚ポストをタリバンの幹部らが独占しました。

民族的にもタリバンの母体であるパシュトゥン人で占められ、タジク人やハザーラ人など少数派の民族はごく僅かです。

むろん女性は一人も含まれていません。

イスラムの教えの範囲内で女性の権利を保障するとしつつ、『勧善懲悪省』を復活させました。

この省は、男性優位の規範に基づき女性の行動や服装を監視し、違反者を処罰する悪名高き政府機関です。

女性だけで遠出するのを禁止する命令や、女性の頭髪や顔を覆い隠すことを義務付けるなどの命令を出しています。

日本の中学・高校にあたる「中等学校」では、女子生徒の登校が未だ認められておらず、職場を追われる女性教員も数多くいるらしい。

さらには、国際社会が最も懸念しているのはタリバンと国際テロ組織アルカイダの関係ですが、それも断ち切れていないようです。

このほか、タリバン政権への批判や抗議はもちろん、言論・報道の自由も認められていません。

選挙管理委員会も廃止されていますので、選挙や投票は行われないとみられています。

それでもタリバンは「(国際社会は)タリバン政権を承認し、支援を再開しろ」と主張しています。

これまで対話を続けながらもタリバン政権を承認した国は一つもなく、多くの国が支援を見合わせ、米国もタリバンへの制裁を続けています。

米国はアフガニスタン政府が米国国内の金融機関に保有していた資産(日本円で約8,000億円)を凍結する措置をとったため、暫定政権は著しい資金不足に陥っています。

アフガニスタンではこの半年間、公務員の給料も支払われていないという。

国内供給能力の低さによる物価高騰、加えて酷い干ばつの影響もあって未曾有の食料不足と人道危機が起きているわけです。

ゆえに、こうした状況を打開すべく、政権承認とは切り離したかたちで人道支援を促進しようとする動きもはじまっています。

国連安全保障理事会は去年12月、人道支援はタリバンに対する制裁の対象とはならないとした決議案を採択しました。

これに連動するかたちで米国政府も人道支援目的にかぎってアフガニスタンへの銀行送金を認める措置をとっています。

さらにバイデン米大統領は先週、国内で凍結されていたアフガニスタン政府の資産のうち、半分にあたる日本円にして約4000億円について基金を設けてアフガニスタンの人道支援に充てると発表しました。

世界銀行も、凍結されていたアフガニスタン復興基金の一部を国連機関に移管して運用を任せるに至っています。

いずれにしても、タリバン政権に利を食らわせず、アフガニスタン一般国民への人道支援を充実させることは難しい。

部分的には、どうしても国際社会がタリバン政権に妥協せざるをえないところもあるでしょうが、今となってはやむを得ない。

そもそもタリバン政権の復権を許したのは、駐留米軍の撤退です。

事の良し悪しは別として、覇権国なき世界の現実です。