日本は公務員天国ではない

日本は公務員天国ではない

病床ひっ迫とならび、コロナがあぶり出した深刻な課題の一つが「公務員不足」です。

ご承知のとおり、コロナ禍ではまず、保健所の手が回らなくなりました。

川崎市を例にあげると、人口154万人に対して保健所の数は一カ所しかなく、どう考えても保健所の職員が対応しきれるはずがない。

現在の憲法下では、コロナ感染者を隔離する際に法的拘束力を持たせることができず、隔離しているコロナ感染者一人ひとりに対して、保健所の職員が電話をかけ状況把握をおこなっています。

それがどれだけ大変かつ無謀なことか。

日本の保健所の数が減ったのは、新自由主義に基づく構造改革が行われるようになってからです。

有事の想定がまったくできていない政府は、これまで容赦なく病床を減らし、保健所を減らし、地方自治体も、また公務員を減らしてきました。

むろん、公務員削減は緊縮財政の一環です。

財務省だけでなく、地方自治体の首長、議会、財政当局、あるいは有権者にも新自由主義者(緊縮財政派)は多いのです。

しかしながら、実は日本ほど公務員の数が少ない国はないことをご存知でしょうか。

日本の公務員の少なさは、人口千人あたりの公務員数を世界と比較すれば一目瞭然です。

例えば、フランスが90人であるのに対し、日本はわずか37人です。

日本はフランスの4割程度の数しかいません。さらにはアメリカの64人よりも少なく、あのサッチャー改革で公務員を減らしに減らしたイギリスのなんと三分の一の規模にすぎません。

その一方で、時代とともに行政需要は高まり、職員一人あたりの仕事量は増え続けています。

今や完全なマンパワー不足に陥っています。

国は2020年度に、73兆円の補正予算を組みましたが、30兆円は未執行のままでした。

財政健全主義の財務省が使わせなかったという側面もありますが、公務員数が足らずに執行できなかった面も否定できません。

世間では、「公務員は定時に帰ることができて楽な仕事」という認識があるようですが、そんなことはありません。

例えば川崎市役所では、与えられた仕事量に対し、7〜8割程度の人員しか配置されておらず、常に多忙を極めています。人員不足からチェック機能が手薄となり、昨今では公務上のイージーミスが目立つようになっています。

公務員が不足している状況のなか、例えば大阪市(大阪維新の会)などは公務員の数が多すぎるという理由で、窓口係の職員などを民間の人材派遣会社に委託しています。

そもそも「公務員が多すぎる」という前提そのものが間違っていますが、公務員の仕事を派遣社員に任せてしまうことは大きな問題をはらんでいます。
 
意外に知られていないことですが、正規職員の公務員は、災害時には家族を置き去りにしてでも登庁、あるいは現場に駆けつけなければならない義務を負っています。

自衛隊員や警察官がそうであるように、地方自治体の職員もまた、入庁する際には公僕としての責務遂行を宣誓しています。

一方、派遣社員にはそのような義務はありませんので、危機の際には戦力になりません。

また、派遣社員は通常の公務員よりも安い賃金で働かされるので、正規職員に比べ職務上のモチベーションが上がらなくて当然です。

あるいは3年ごとに別の派遣社員と入れ替わり、次の職場ではまた違う仕事をさせられるのでは人材の育成にもならず、役所側も新しい派遣社員が来るたびに一から仕事を教える必要が出てきます。

そもそも必要な職員はきちんと正規の職員として採用すべきです。

詰まるところ、派遣法改正で儲かっているのは給料をピンハネする派遣会社だけです。

あたかも日本が「公務員天国」であるかのように囃し立て、国民の公務員ルサンチマン(鬱屈とした不満)を煽っては、それを回収する。

そんな手口で票を獲得している政党や政治家たちが世に跋扈しています。