ゼロコロナ政策のリスク

ゼロコロナ政策のリスク

大規模な感染拡大が無くとも数十万から数百万単位の人々に厳しい行動制限をかける、それが中国の「ゼロコロナ政策」です。

このメイドインチャイナのゼロコロナ政策が各国の経済にとって新たなリスクになるという指摘がでています。

中国の去年10月から12月のGDP(国内総生産)の伸び率は、前年同期比でプラス4.0%でした。

去年一年間の推移をみますと、第1四半期(1〜3月)こそ、前の年に落ち込んだ反動で大きな伸びとなったものの、その後は減速傾向が続いています。

その背景には、不動産大手恒大グループの経営問題の影響で不動産の開発投資や物件の販売が減少したことに加え、新型コロナの感染を徹底して抑え込むゼロコロナ政策による行動制限の影響が指摘されています。

実際に去年7月下旬に江蘇省南京の空港で働く職員がデルタ株に感染したのをきっかけに少なくとも全国18の省や自治区に感染が拡大したことを受けて、各地の当局が感染リスクが高いとされる地区を封鎖したり、不要不急の旅行や出張を控えるよう求めたりしました。

結果、昨年8月には、外食産業の売上が前年同月比で4.5%もマイナスになってしまい、非製造業全体の景気判断を示す指数も47.5となって、節目の50を一年半振りに下回ってしまいました。

さらに、ゼロコロナ政策の影響は消費に留まりませんでした。

先月、コンテナの取扱量で世界3位の港がある浙江省寧波で感染者が確認されると、港を出入りするトラックの運転手がPCR検査の陰性証明の提示を求められるようになりました。

海外からくる貨物の消毒が義務付けられ、配送にこれまで以上の時間とコストがかかるようになるなど、物流面にも大きな影響がでています。

このように中国のゼロコロナ政策は大規模な感染拡大を防ぐ一方で、経済に少なからぬ影響を及ぼしています。

ではなぜ、北京(習近平指導部)は、ここまで厳格な感染防止対策にこだわるのでしょうか。

むろん、そこには政治的な思惑が絡んでいるのだと思われます。

習近平国家主席はこれまで、自らを毛沢東や鄧小平と並ぶ「党中央の核心」と位置づけたり、二期十年までと定められていた国家主席の任期を撤廃したりして権力の集中をはかってきました。

そして今年は、5年に一度の共産党大会が秋にも開かれ、その場で党のトップである総書記として異例の3期目に入るか、あるいは毛沢東以来の党主席の地位に就くかして、党のトップとして君臨し続けることを狙っているとされています。

そのためには、来月からの北京五輪・パラリンピックから党大会まで、コロナを抑え込み、社会を安定させた状況で迎える必要があると考えているものとみられます。

ただ、その一方で党大会を前に経済を落ち込ませるわけにもいきません。

このため、中国の中央銀行にあたる中国人民銀行は、事実上の政策金利を2ヶ月連続で引き下げ、景気の下支えをはかっています。

要するに習近平政権は、ブレーキをかけるのと同時にアクセルを踏む政策を採用しているわけですが、残念ながら金融政策は紐みたいなもので、引く(景気を抑制する)ことはできても、押す(景気を刺激する)ことはできないでしょう。

そしてこのゼロコロナ政策に対し、ついに海外から警鐘を鳴らす声が高まっています。

国際情勢の分析で知られる米国の調査会社であるユーラシア・グループは、今年の10大リスクの最上位に中国のゼロコロナ政策の失敗をあげています。

ユーラシア・グループを率いるイアン・ブレマー氏は「感染力の強いオミクロン株によってゼロコロナ政策が失敗する可能性がある。その場合、主要都市での封鎖が相次ぐ。すると工場が操業停止したり、部品や製品の供給網が混乱したりするため世界経済へのインフレ圧力となる」としています。

因みに、ここで言う「インフレ」は、むろんコストプッシュ型のインフレですので、これを理由に財政の引き締めを主張するのは筋違いです。

また、中国に精通する専門家たちからも「ゼロコロナ政策による徹底した監視と行き過ぎた行動制限自体には様々な問題点がある」との指摘がでています。

例えば、中国では濃厚接触者の定義は日本のそれよりも広く、究極的に行動制限が厳しい。

要するにそれらの制限についての科学的根拠が乏しく、経済に過度のマイナスダメージを与えてしまう懸念が高まっているようです。

因みに、日本においてですら濃厚接触者の行動制限の厳しさが社会問題となっており「濃厚接触者の待機期間を短縮せよ」という声が高まっているのは周知のとおりです。

なお、このたび北京市で採られた措置が、まさに個人のプライバシーを侵害する問題として大きな話題となっています。

北京では、感染が確認された人との接触した可能性があるかどうかわかるように、その人の自宅や勤め先の場所、そして過去二週間の行動履歴がメディアに公開され、新聞やネットで閲覧されるようになっています。

しかも、そうした情報は個人が自分で申告するのではく、当局がその人のスマホやパソコン、あるいは監視カメラから収集した生活情報を勝手に掲載するわけです。

すごいですね。

そこまでして北京政府は、コロナを抑え込むことで共産党による統治の優位性を示したいようです。

といって、その結果、経済的ダメージのみならず、個人プライバシーにつながる個人情報の容赦なき公開は強権的な政治体制の特異さを際立たせてしまうことにもなりかねない。

まさに習近平主席が抱えるジレンマです。