モルヌピラビル

モルヌピラビル

米国の製薬会社であるメルクが開発したモルヌピラビルが、飲み薬の新型コロナ治療薬として初めて承認されました。

添付文書をみますと、発症から速やかに投与することとなっています。

年齢18歳以上、軽症または中等症の患者で、新型コロナで重症になりやすいとされるリスク要因のある人に投与するとしています。

ご承知のとおり、新型コロナの症状ははじめはウイルスが増殖し、その後は肺炎などの症状が進行すると重症化します。

モルヌピラビルはウイルスの増殖を抑える作用をしますので、早めに飲めば重症化せずに回復に向かうことが期待できるというものです。

投与が遅れて肺炎などの症状が進んでしまってからでは、残念ながら薬の効果は発揮されないらしい。

よって、発症から5日以内に適切に投与がはじめられるかどうかが一つの鍵となり、迅速な診断ができる体制も求められています。

さて、この薬が期待されている理由の一つは、使いやすさです。

治療薬としては中和抗体薬と呼ばれるものが日本では既に二つ承認されています。

この薬は点滴で投与するため、医師などによる管理が必要になります。

ゆえに過去の感染拡大の際、自宅療養の感染者に使うことが難しいなどの問題が指摘されていました。

これに対してモルヌピラビルは、飲み薬なので使いやすくなります。

それからもう一つの期待は、モルヌピラビルはオミクロン株に対しても、これまでのウイルスと同様の効果があると言われていることです。

新型コロナウイルスは人の細胞に入ると、細胞の中にウイルスの複製工場のようなものをつくってウイルスを増殖させていきます。

中和抗体薬は、点滴で体に送りこんだ抗体によってウイルスが細胞に入るのを抑えます。

ところが、オミクロン株はウイルスの突起の部分に多くの変異があり形を変えていますので、中和抗体薬の抗体がウイルスの突起を捉えられずに細胞に入るのを抑えられない可能性があります。

実際、抗体カクテル療法で知られる「ロナプリーブ」ではそうした懸念が指摘されていて、厚労省によると、オミクロン株に対しては効果が弱まる結果が出ているらしい。

一方、モルヌピラビルは、ウイルスが細胞に入った後にできる複製工場を攻撃して増殖を抑えるという。

ウイルスの突起とは関係ない複製の段階で薬が作用するため、オミクロン株に対しても薬の効果は維持されていると考えられています。

では、効果に対する専門家の評価はどうなっているのでしょうか。

モルヌピラビルを投与した者700人と、モルヌピラビルを投与しなかった者700人を対象にした臨床試験の結果、投与しなかった場合、入院あるいは死亡に至った人の割合は9.7%であったのに対し、投与した場合は6.8%でした。

私ども素人目には「たったそれだけの違いなのか…」と思われがちですが、専門家たちはこれを「薬を飲むことによって入院や死亡のリスクを30%も減少させた」とみるようです。

気になる副作用はどうか。

この薬は動物実験で胎児への影響が報告されたことなどから、妊娠中あるいは妊娠の可能性のある女性には投与しないこととされています。

なお、この薬について海外の評価はどうなのでしょうか。

例えば英国は既に承認しており、追加の契約も決めています。

フランスは「効果について期待したほどでなかった」として発注をキャンセルしています。

米国FDA(食品医薬品局)は23日に緊急使用の許可を出しましたが、限定的な使用にとどめているらしい。

このように海外での対応は様々です。

日本は既にメルク側と「160万人分の供給を受けること」で合意しています。

人の移動が多くなる年末年始を前にオミクロン株の市中感染が明らかになっているなか、政府は160万人分のうち20万人分について全国に配送し、使用できる体制をつくっているところです。

今回の承認を受け、どういった患者に投与するのが効果的なのか、臨床試験ではみられなかった重篤な副作用は起こらないのか等々を分析するため、まずは日本においても症例に関するデータを蓄積することが求められるのでしょう。

新型コロナウイルスはこの2年ほどのあいだにアルファ株からデルタ株、そしてオミクロン株へと次々と変異を続けています。

この変異に、治療薬の面からどう備えるか。

ウイルスの増殖の過程では、モルヌピラビルは細胞内の複製工場での複製を抑え、中和抗体薬は細胞内への侵入を防ぎます。

モルヌピラビルはオミクロン株には作用するとみられていますが、専門家からは「今後、モルヌピラビルの効果が低下するような変異ウイルスが広がることも想定しておくべきだ」という意見もあります。

求められているのは、違った作用をもつ複数種の治療薬の開発なのかもしれません。

例えば、塩野義製薬やファイザー社の飲み薬は、細胞内で複製工場をつくる準備の段階で攻撃をする作用をもっているらしい。

このように作用の異なる薬が揃ってくれば、中和抗体薬が効かない変異ウイルスには飲み薬、仮にモルヌピラビルが効きにくい変異ウイルスが出てきても他の薬が効くといったように、ウイルスの変異に応じて薬を使い分けることも可能になります。

変異ウイルスへの備えとして、作用のしかたが異なる多様な治療薬の開発が期待されます。