台湾有事は近いのか

台湾有事は近いのか

軍事外交の世界には「文攻・武嚇」という言葉があります。

文攻とは、外交、メディア、あるいは友好的な人脈を使って相手国内に混乱や分裂をもたらし、最終的に相手国を弱体化、衰弱させるという手段です。

相手を支配するのではなく、あくまでも相手を無力化し、相対的に自国にとって有利な状況をつくりだすわけです。

いわば言葉を使った戦争であり、宣伝戦、心理戦と言ってもいい。

一方、武嚇とは、その名のとおり武力を直接行使することではなく威嚇に使うことです。

武嚇は文攻をより効果的にするものでもあり、むろん武嚇が簡単にできるときは武嚇を武攻に切り替えることも可能です。

これまで北京は明らかに日本に対して文攻武嚇をしかけてきました。

武嚇を武攻にしてこなかったのは、日本をはじめアジア太平洋各国の背後に“強い米軍”が控えたいたからです。

この20年間で中国の軍事能力は飛躍的に高まり、今や武攻により東シナ海、南シナ海から米軍を追い出そうとさえしています。

「北京を自由貿易に引き入れ経済的な利を食らわせていれば、中国が米国や世界にとって軍事的脅威になることはない」という2000年以降の米国の対中政策は完全に失敗したのです。

北京は経済的利益を存分に活かして軍事力を増強し、敢然と文攻武嚇を遂行しつつ、いつでも武攻に転じて米軍に挑戦するほどの実力を蓄えたのです。

今や、1995年の第三次台湾危機で戦わずして米軍(空母2ユニット)に屈伏した、あの中国とはちがうのです。

とりわけ、この数カ月、北京は明らかに台湾アプローチを見直しています。

10月1日以降、中国軍機による台湾の防空識別圏への進入は149機に上っており、ほか台湾に対する武嚇を繰り返しています。

台湾の邱国防相は「中国は2025年に台湾に侵攻する完全な能力を備える」と危機感をつのらせていますが、それほど悠長な時間軸ではないようです。

かつての北京は「台湾への軍事作戦など現実的オプションではない」と考えていたのでしょうが、既に台湾に対する文攻武嚇に完全に勝利しており、習近平国家主席もまた武力統一の野心を隠そうとしていません。

例え米軍が台湾有事に介入してきても「状況を制することができる」という自信さえみせています。

人民解放軍指導層をはじめ人民による武力統一オプションへの支持も強化されているらしい。

少なくとも北京では、ほぼ1世紀にわたる内戦を決着させよう、という機運が高まっているにちがいない。

台湾有事に我が国はどのように関わることになるのか、その備えは充分なのか。

あるいは台湾有事が尖閣有事、沖縄有事、日本有事へと直結していくのか。

我が国ではこれから衆議院選挙が行われますが、候補者の口から台湾有事への言及が発せれることはないでしょう。

ぜひ、衆議院議員候補者をみかけたら「あなたは台湾有事についてどのようなお考えを持ちですか?」と質問してほしい。

有権者の「良い質問」こそが、政治家のクウォリティを高めます。