タレントの加藤浩次氏と、参政党の神谷宗幣代表が、インフレと財源をめぐって議論をしている動画を目にしました。
動画を拝見すると、双方に異なる誤解があることが見えてきます。
まず、加藤さんの誤解は、「おカネを増やせば価値が下がりインフレになってしまう」という、主流派経済学が主張する「貨幣数量説」を前提に、現在の物価上昇の原因を説明している点です。
経済全体の需要が強く、供給能力が限定的な局面で政府が財政支出(新規国債の発行)を過剰に拡大すれば、需要超過によるインフレは起こり得ます。
しかし、今の日本で起きている物価上昇は、そのような需要超過型(デマンド型)のインフレとは性格が異なります。
問題の中心は貨幣量それ自体ではなく、長年のデフレ放置によって国内の供給能力が毀損してきたことにあります。
人手不足、設備投資不足、技能継承の停滞、そして物流・建設・農業・エネルギー分野における供給制約の積み重ねにより、必要なモノやサービスを十分に供給できない構造が生まれています。
つまり、現在の物価上昇は、供給能力の毀損によって生じた「サプライロス型インフレ」として捉えるべきです。
加藤さんは「貨幣が増えたから物価が上がった」と見ているのに対し、現実は「供給能力が弱っているために物価が上がっている」ということです。
一方、神谷さんの説明にも問題があります。
神谷さんは、「インフレの原因はおカネを増やしたからではなく、材料の値段が上がったからだ」と述べています。
加藤さんの単純な貨幣数量説への反論としては方向性自体は誤っていないものの、材料価格の上昇だけを原因として語るのは、やはり十分ではありません。
なぜなら、繰り返し述べているとおり、いま起きている問題は、一時的な資材高や輸入物価高だけではなく、それを吸収できないほど、日本の供給能力が低下していることにあるからです。
上のグラフのとおり、輸入物価の推移を見ると、たしかに2022年までは神谷さんのご主張どおり、物価上昇の主因と言ってもよかったでしょうが、2023年以降は、それだけでは説明できないインフレに移行しています。
つまり、「材料の値段が上がったからインフレになった」という説明は、現象の入口には触れていても、なぜそれが長期化し、なぜ国民生活を継続的に圧迫しているのかという構造の説明にはなっていません。
さらに、神谷さんは「銀行がおカネを発行すればいい」「政府が指導して、生産活動やインフラ整備におカネを流せばよい」と述べています。
この発想自体は、財政や信用創造を単なる家計簿感覚で捉えないという点で、加藤さんよりも本質に近い面があります。
しかも神谷さんは「おカネを出す先が問題だ」と言っておられ、それは「おカネを出せば解決する」という意味ではなく、「毀損した供給能力を回復する方向に資金を向けなければ解決しない」ということであれば正解です。
いくら資金を供給しても、受け皿となる労働力、設備、技術、物流網、原材料調達体制が弱っていれば、需要だけが先に立って、かえって物価上昇圧力を強めることにもなりかねません。
したがって、必要なのは単なる資金供給ではなく、供給能力の再建を目的とした、財政支出の拡大を含む実体投資です。
要するに、加藤さんは「貨幣が増えると危ない」という話をし、神谷さんは「貨幣ではなく資材高だ」と応じていますが、両者ともに、いま起きているインフレの主語を十分につかみ切れていないように見えました。
問題の本質は、貨幣量そのものにあるのではありません。
また、単発の輸入物価高だけでもありません。
日本の供給能力の毀損という構造にこそあります。
今回のやり取りを見ていて改めて感じたのは、日本ではいまだに「インフレ=おカネの出しすぎ」という単純な理解と、「物価高=輸入価格のせい」という表層的な理解が併存しているということです。
しかし、現実の日本経済は、より深刻な構造問題に直面しているのです。


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