2025年12月、改正建設業法が全面施行されました。
今回の改正は、元請企業と下請企業の取引慣行を見直し、建設技能者に適正な賃金が支払われる仕組みを整えることを目的としたものです。
背景には、深刻な建設技能者不足があります。総務省の労働力調査によれば、建設技能者の数は約20年前の386万人から、現在は299万人まで減少しました。今後も減少傾向が続くと予測されています。
建設業は、道路や橋梁、住宅、工場、インフラの整備や更新、さらには災害復旧など、社会の基盤を支える産業です。
その担い手である技能者が減り続ければ、日本の社会基盤そのものが維持できなくなるおそれがあります。
今回の法改正は、この状況に対し、建設産業の取引構造を見直すことで技能者の処遇改善を図ろうとするものです。
大きく変わる点は主に三つあります。
第一に、「著しく低い労務費」による見積もりが禁止されました。
これまで建設業では、元請企業が下請企業に対して価格を強く引き下げる慣行が指摘されてきましたが、今回の改正では、中央建設業審議会が「標準労務費」を示し、極端に低い労務費による見積もりを抑制する仕組みが導入されました。
第二に、見積書の内訳の明示が求められるようになりました。
これまで建設工事では「一式見積」が多く、労務費がどれだけ確保されているのかが見えにくい状況がありましたが、今回の改正により、労務費や材料費などの内訳を明示する努力義務が設けられています。
第三に、資材価格の高騰などがあった場合の契約変更協議のルールが明確化されました。
下請企業が価格変更の協議を求めた場合、元請企業は誠実に協議に応じる努力義務を負うことになります。
これらの制度は、建設産業において長年問題視されてきた「労務費の圧縮」を抑制し、技能者の処遇改善につながる可能性があります。
建設技能者の確保という観点から見れば、一定の意義を持つ制度改革であると言えるでしょう。
もっとも、この改正だけで建設産業の問題がすべて解決するわけではありません。
建設業には、元請企業を頂点として一次、二次、三次と下請企業が連なる「重層下請構造」があります。
この構造の中では、価格の圧力が下へ下へと伝わりやすく、最終的には技能者の賃金が圧縮される傾向があります。
今回の制度は、こうした構造に一定の歯止めをかける可能性がありますが、制度だけで長年形成されてきた商慣行がすぐに変わるとは限りません。
実際に技能者の賃金改善につながるかどうかは、今後の運用次第であると言えるでしょう。
また、もう一つ重要な点は、今回の法改正は主に「取引ルール」を見直す政策であり、建設業全体の需要や投資の問題には直接触れていないという点です。
今回の建設技能者不足は、単に個々の企業の問題だけで生じたものではありません。
1990年代以降、日本では公共投資が大幅に削減されてきました。
それと同時に、公共工事では激しい入札競争が導入され、建設企業はコスト削減を迫られるようになりました。
この中で、最も削減されやすかったのが労務費でした。
材料費や機械費は市場価格に左右されるため削減の余地が限られますが、人件費は調整が可能であるためです。
その結果、建設技能者の賃金は他産業と比べて低い水準にとどまり、若い世代の入職が減少し、技能者の減少が進んできました。
つまり、こうした状況を改善するため、労務費を確保する仕組みを導入する法改正と言えます。
しかし、建設産業を支える人材を本当に確保していくためには、取引制度の見直しだけでなく、建設投資のあり方や産業全体の構造についても改めて考えていく必要があるのではないでしょうか。


