会計検査報告が示す公共工事の構造問題

会計検査報告が示す公共工事の構造問題

会計検査院が2025年11月の検査報告を公表しました。

今回の報告で目立ったのは、設計段階では正しい判断がなされていたにもかかわらず、図面作成や発注、施工の過程で問題が生じ、完成した構造物に不具合が発生した事例が多数指摘されている点です。

例えば、島根県津和野町の農業用取水施設では、堰の下流側に設けられた護床ブロックが水流によって崩壊しました。

原因は、ブロック同士を金具で連結していなかったことでした。

しかし、設計そのものが誤っていたわけではありませんでした。

構造計算の段階では、ブロックは連結される前提で設計されていたものの、その連結に関する記載が設計図面に反映されておらず、発注時にも修正されないまま工事が進められたとされています。

施工者から連結の必要性について問い合わせがあったにもかかわらず、十分な確認が行われないまま「連結不要」と判断され、そのまま施工された結果、構造物は水流に耐えられず崩壊してしまったわけです。

東京都の砂防堰堤工事では、施工段階の設計変更の際、側壁背面の埋め戻し材を改良土から建設残土へ変更しましたが、その際に必要な土質試験の検討が十分になされず、結果として護岸が不安定な構造となりました。

群馬県の橋梁工事では、橋座部の耐力や横変位拘束構造の解釈について、発注者と会計検査院の見解が食い違う事例も報告されています。

滋賀県の擁壁工事では、施工者が「安全側」と判断して設計位置から大きく逸脱して掘削を行った結果、斜面から崩壊する土砂を十分に捕捉できない構造となっていました。

こうした事例だけを見ると、多くの人は「施工ミス」や「現場判断の誤り」と受け止めるかもしれません。

では、なぜこのような問題が各地で繰り返し発生しているのでしょうか。

私は、そこに制度構造の問題があるのではないかと考えています。

現在の公共事業は、設計、積算、発注、施工、監理、検査という多層的な分業構造の上に成り立っています。

本来、この仕組みは専門性を高めるための制度でした。

しかし長年にわたる公共投資の抑制により、行政の技術職員、設計コンサルタント、施工企業のいずれにおいても技術者の層は薄くなりました。

その結果、分業構造だけが残り、全体を俯瞰して判断できる主体が弱くなってしまったのではないかと思います。

会計検査報告に並ぶ事例は、まさにその結果を示しています。

・設計変更の判断で土質試験が十分に考慮されなかった

・施工者が「安全側」と判断して設計位置を逸脱した

・設計基準の解釈が発注者と検査院で食い違った

どれも個人のミスに見えますが、その背景には、技術者不足、責任の分散、過度な分業という構造的制約があります。

こうした構造的な問題は、川崎市の公共施設やインフラ整備の現場でもすでに表れています。

例えば、市立労働会館の改修工事です。

当初の計画では、大規模改修によって施設を延命し、建替えよりもコストを抑えると説明されていました。

しかし工事が始まると、設計図と実際の建物との間に多数の不一致が見つかりました。

想定していなかった補修や再設計が次々と発生し、工期は当初より13か月延長され、工事費は約27.6億円増額となりました。

しかも市が令和8年1月に示した資料では、この問題が収束したわけではなく、今後も工期延長や工事費増額の可能性があることが明示されています。

つまり、これは一時的な混乱ではありません。

竣工図が存在しないため、建物の実態を調査しながら設計をやり直すという、極めて不確実性の高い工事になっています。

これは「改修工事」というより、現地調査そのものが設計作業になってしまっている状態と言えるでしょう。

さらに、登戸陸橋の改修工事でも、同様の問題が表れています。

既設鉄筋の位置が設計図と異なり、当初予定していた工法では施工できないことが判明しています。

その結果、工事は中断し、設計の再検討と履行期限の延長が必要となっています。

図面と現物の乖離、老朽構造物の不確実性、工事途中での再設計という、老朽インフラ改修に共通する問題の背景には、もう一つ重要な政策思想があります。

それは、公共投資は抑えるべきコストであり、既存施設はできる限り延命すべきだとする緊縮財政思想です。

この考え方は、公共施設やインフラの整備方針にも大きな影響を与えてきました。

個々の現場の努力や注意だけで解決できる問題ではなく、むしろ現在の公共事業を取り巻く制度構造そのものが、こうした事態を必然的に生み出しているのではないでしょうか。