タカ派として知られる高田創・日銀審議委員は2月26日の記者会見で、日銀が掲げる2%の物価安定目標は「既に達成しており、その認識は今も変わっていない」と述べつつ、物価が目標より上振れする可能性を念頭に「状況によってはビハインド・ザ・カーブ(利上げが後手に回る)のリスクもあるので、そうならないよう対応したい」と語ったとのことです。
要するに、高田氏は、物価目標は達成されたとの認識を前提に、インフレの上振れに出遅れないよう追加利上げも視野に入れる必要がある、という立場を示したことになります。
しかし、私はこの発言に強い違和感を覚えます。
氏と私では、現在のインフレの性格に対する認識に大きなズレがあります。
一般に、中央銀行が警戒するインフレは、旺盛な需要が供給能力を上回ることで生じる、いわゆるデマンドプル型インフレです。
この場合、金融引き締めによって需要を抑制することは、理論的にも政策的にも一定の合理性があります。
ところが、現在の日本経済で観察されている物価上昇は、必ずしも好景気型の需要超過によって説明されるものではありません。
むしろ、人手不足、供給能力の毀損、エネルギー・物流・一次産業などの制約によって、供給側が細っていることに起因する側面が強いと考えられます。
いわば、サプライロス型の物価上昇です。
この場合、利上げは物価上昇の原因そのものには作用しません。
供給制約そのものを金融政策で解消することはできないからです。
それどころか、利上げは企業の資金調達コストを押し上げ、設備投資や人への投資を抑制し、供給能力の回復を遅らせる可能性があります。
結果として、実体経済を弱らせながら需給を合わせる方向に作用しかねません。
つまり、サプライロス型の物価上昇に対して利上げで対応するとは、原因を解消することではなく、需要を抑えることで均衡を作り直す政策にほかなりません。
供給能力の毀損が主因である局面において、優先されるべきは需要の抑制ではなく、供給能力の回復です。
人への投資、インフラ投資、産業投資、そして将来需要の予見可能性を高める政策こそが、本来の処方箋です。
物価目標の形式的な達成を根拠に金融引き締めを志向するのか、それとも、物価上昇の構造を踏まえ、供給能力の回復を優先するのか。
これは金融技術の問題ではありません。
政策の優先順位の問題です。
9名の日銀審議委員による、物価の形式ではなく構造を踏まえた賢明な判断を強く望みます。


