高市自民党の総選挙での圧勝により、日本は「決められる政治」になったと言われています。
しかし重要なのは、何を決めるかです。
現在の経済情勢を冷静に見ると、2024年は実質GDPがマイナス、2025年も実質成長は1%程度と弱い一方で、名目GDPは物価上昇を反映して4%超の伸びを示しています。
実体経済は力強くないにもかかわらず、物価が上がることで名目の数字だけが膨らんでいます。
ここに、日本経済の新しい局面が現れています。
物価上昇の説明として、いまだに「円安」や「輸入物価」が挙げられますが、現在の物価高は、それだけでは説明しきれません。
輸入物価の上昇率(前年比)は2022年までと2023年以降で明確に様相が違い、最近は落ち着いていますが、国内の物価上昇(GDPデフレーター等)は続いています。
ここで重要になるのが「前年差」という視点です。
物価が“高止まり”しているだけでは、前年同月比の伸びを押し上げ続ける説明になりません。
つまり、いま起きている物価上昇は、輸入要因だけで説明するのが難しいのです。
では何が起きているのでしょうか。
長年のデフレ放置と投資抑制によって、社会全体の供給能力(人材・設備・技能)が削られ、需要が少し動くだけでも供給が追いつかない状況が生まれています。
その結果、需要が少し動くだけで物価が上がる状態が常態化しています。
これを経済評論家の三橋貴明氏は「サプライロス型インフレ」と呼んでいます。
ただし、いま本当に深刻なのは「物価」それ自体よりも、物価上昇に賃金が追いつかず、実質賃金が下がり続けることです。
預金の実質価値も目減りし、働き手ほど「頑張っても豊かになれない」という感覚が強まっています。
ここから導かれる結論は明確です。
デフレ期における政府支出は、需要創出を目的とします。
民間需要が不足する局面では、政府が需要を補完することで経済を支えます。
しかしサプライロス型インフレ局面では、制約は需要ではなく供給にあります。
このとき政府支出の意味は根本的に変わります。
需要を増やすことではなく、供給能力を回復・強化することが目的になります。
つまり政府支出は、景気対策から供給制約の解消政策へと役割が転換しているのです。
いま必要なのは、需要を抑え込む引き締めで“痛みを分かち合う”ことではありません。
削られた供給能力を回復し、実質賃金を押し上げる方向へ政策を組み替えることです。
実質賃金の水準は、生産性(投資)、労働分配率、消費税、輸入物価という四つの要因によって決まります。
とりわけ重要なのは投資(生産性の向上)です。
政府や自治体こそが予見性ある需要を示し、設備や技能に資金が回る環境をつくることが不可欠です。
つまり都市政策・産業政策・インフラ政策は、そのまま賃上げ政策でもあるのです。


