公共施設は誰が守るのか――四日市地下駐車場浸水から考える非常時の統治

公共施設は誰が守るのか――四日市地下駐車場浸水から考える非常時の統治

2025年9月12日の記録的大雨により、三重県四日市市の地下駐車場が浸水し、274台の車両が水没する被害が発生しました。

当該事案については、復旧検討委員会による検証の結果、防災対策の不十分さが被害拡大の一因であったことが明らかになりました。

この出来事は、単なる「現場対応の不手際」や「想定不足」といった言葉で片付けてよい問題ではありません。

むしろ、現代の公共施設が抱える構造的な脆弱性を、極めて分かりやすい形で露呈させた事案だと言えます。

問題の地下駐車場には、止水板などの防水設備自体は存在していました。

また、防災業務計画も形式上は整備されていました。

それでも結果として、雨水は15か所もの出入口から流れ込み、地下2階は天井まで完全に水没しました。

なぜ、防ぐことができなかったのでしょうか。

復旧検討委員会の報告を読み解くと、原因は「設備の性能不足」ではなく、人が動くことを前提に組み立てられた防災思想そのものにあったことが分かります。

止水板の多くは人力設置式で、警報発令後、限られた時間内に、少人数の職員が判断し、設置しなければ機能しない仕組みでした。

しかし、警報発表から浸水開始までの時間は、わずか30分程度でした。

浸水が始まってからは、10分足らずで急激に水位が上昇しています。

これは「怠慢」ではありません。

人力対応を前提にした制度設計そのものが、時間的・物理的に破綻していたとみるべきでしょう。

さらに見逃せないのは、この地下駐車場が、国道側は国が整備、市道側は第三セクターが整備、運営はPFI事業、日常管理は委託という、複数主体が関与する構造の中にあった点です。

平時においては、こうした分業は効率的に機能します。

しかし非常時には、「誰が最終的に止めるのか」「誰が閉鎖を判断するのか」「誰の判断が最優先されるのか」が曖昧なままになりがちです。

実際、この事案でも、設備はあっても、計画はあっても、即断即決する指揮権が一本化されていなかったことが、被害拡大の背景にありました。

これは四日市市だけの問題ではありません。

指定管理者制度やPFI、第三セクターを活用して運営されている全国の「公の施設」に共通する課題です。

指定管理者制度は、民間の知恵や効率性を活かすための制度であり、公の施設の「運営」を委ねる仕組みです。

しかし、災害時の判断や人命に直結する決断までを、現場任せにする制度ではありません。

非常時に求められるのは、人の頑張りではなく、経験や勘でもなく、契約解釈でもなく、構造として止まり、構造として守られる仕組みです。

地下施設や大規模集客施設では、「人が設置する防災」から「自動で作動する防災」へ、そして「分散した管理」から「非常時の指揮権一本化」へ。

この思想転換を行わなければ、同じ構図の被害は、場所を変えて必ず繰り返されます。

四日市の地下駐車場浸水は、過去の失敗事例ではありません。

今の制度を使い続ける限り、誰のまちでも起こり得る“未来の事故”だと言えます。