この利上げは誰のためなのか――日本経済の実態と乖離する金融政策

この利上げは誰のためなのか――日本経済の実態と乖離する金融政策

令和7年12月19日、日本銀行は政策金利(無担保コール翌日物金利)を0.75%へ引き上げる決定を行いました。

私は、この判断に対して明確に反対の立場をとっています。

なぜなら、この利上げは現在の日本経済の実態と噛み合っておらず、むしろ経済の回復を妨げる可能性が高いと考えるからです。

政策金利が引き上げられると、企業融資の基準となる短期プライムレートも連動して上昇します。

ちなみに、短期プライムレートは住宅ローンにも影響しますので、住宅ローン家計の返済負担を圧迫するのは必然です。

さて、今回の利上げによって、短期プライムレートは2%を超える水準に達する可能性があります。

これは企業にとって決して軽い負担ではありません。

優良企業であっても2%以上、中小企業であればそれ以上の金利を支払わなければ資金調達ができなくなります。

利上げとは本質的に、企業に「お金を借りにくくさせる政策」です。

その結果、設備投資や研究開発への意欲が削がれ、経済成長の芽が摘まれてしまいます。

そもそも、現在の日本経済は利上げを正当化できる局面にはありません。

一般に利上げが必要とされるのは、企業が過剰に借入を行い、投資が過熱している「資金不足」の局面です。

しかし、今の日本はそうした状態には全くありません。

企業部門は長年にわたり借金を返済し続け、内部留保を積み上げてきました。

つまり、日本経済は「資金過剰」の状態にあります。

さらに、2024年7~9月期の実質GDP成長率はマイナスとなり、その後下方修正も行われています。

景気が減速している局面で金融引き締めを行う合理性は見当たりません。

現在の物価上昇についても、冷静な分析が必要です。

これは単なる需要過多によるインフレではなく、長年のデフレと投資不足によって供給能力が毀損し、需要に追いつけなくなっていることによる「供給制約型」の物価上昇だと考えています。

こうした状況で必要なのは、需要を冷やす利上げではありません。

設備投資や技術投資を促し、供給能力そのものを引き上げることです。

政府も補正予算などを通じて投資の必要性を訴えていますが、その一方で日銀が利上げを行い、借入環境を悪化させるのであれば、政策全体として明らかに矛盾しています。

今回の利上げの背景には、別の思惑があるのではないかという疑念も拭えません。

一つは、将来の不況時に金利を引き下げる余地、いわゆる「バッファー」を確保したいという日銀側の事情です。

しかし、そのために今の投資機会を犠牲にするのであれば、本末転倒です。

もう一つは、財務省が掲げるプライマリーバランス黒字化目標との関係です。

利上げによって「金利が上がる」という空気を作ることで、「利払いが増えるから財政規律が必要だ」という議論を正当化しやすくなります。

これは国民経済の実態よりも制度目標を優先する発想ではないでしょうか。

今、日本経済に必要なのは、企業が低金利で資金を調達し、積極的に投資できる環境です。

供給能力を高めなければ、持続的な物価安定も賃上げも、真の経済成長も実現しません。

このタイミングでの政策金利引き上げは、企業の投資を冷え込ませ、日本経済の再生を阻む判断であると考えます。

金融政策は制度や建前のためにあるのではなく、国民経済の実態に即して運営されるべきです。