なぜ日本は「長期投資」を補正予算で語ってしまうのか

なぜ日本は「長期投資」を補正予算で語ってしまうのか

令和7年12月16日、新たな経済対策の裏付けとなる今年度補正予算が、参議院本会議で採決されました。

一般会計総額およそ18兆3,000億円にのぼる補正予算案は、参議院予算委員会での締めくくり質疑を経て、自民党、維新の会、国民民主党、公明党などの賛成多数により可決・成立しています。

コロナ禍以降としては最大規模となる補正予算ですが、その規模や中身、さらには決定に至るプロセスを冷静に見ていくと、看過できない問題がいくつも浮かび上がってきます。

今回の補正予算をめぐっては、当初から政府内で見解の隔たりがありました。

財務省はおおむね14兆円規模を主張する一方、高市氏に近い立場とされる経済学者らは、需給ギャップを根拠に「20兆円程度が必要だ」と訴えていました。

最終的に決着したのは、その中間とも言える18兆円余りです。

率直に言えば、「足して2で割ったような数字」に落ち着いた印象を拭えません。

国家の経済運営を左右する重要な予算が、このような決まり方でよいのでしょうか。

結果として財務省案からは数兆円が上積みされたものの、依然として財務官僚の影響力は強く、その力が「縮小する日本」を前提とした政策方向に向かわないよう、政治が主体的に関与し続ける必要があります。

今回の補正予算には、物価対策として約8.9兆円が計上されているほか、経済安全保障、食料・エネルギー安全保障、防災・減災、防衛力の強化など、重要な政策分野が数多く盛り込まれています。

しかし、その中身を精査すると、構造的な矛盾が存在します。

とりわけ問題なのが、創薬支援(約1,842億円)、造船支援(約1,200億円)、資源開発といった分野です。これらはいずれも、短期的な需要刺激ではなく、数年単位での研究開発や設備投資を通じて「供給能力そのものを拡大」することが不可欠な事業です。

ところが、補正予算は原則として単年度、いわば「今年限り」の性格を持ちます。来年度以降も継続して予算が確保される保証はありません。

特に政局が不安定な局面では、企業側が将来の需要や政策の継続性を見通すことは困難です。

このような状況で、企業が本腰を入れて研究開発や大型の設備投資に踏み切ることは、現実的に不可能だと言わざるを得ません。

これらの事業は、本来であれば補正予算で場当たり的に措置するものではなく、当初予算に組み込み、政府として長期的にコミットする姿勢を明確に示すべき分野です。

では、なぜ長期投資が必要な事業を、当初予算に十分組み込めないのか。

その背景には、プライマリーバランス、いわゆるPB黒字化目標という強い構造的制約が存在します。

PB目標は、歳出と歳入の均衡を至上命題とし、国家財政を家計や企業と同列に扱う発想に立脚しています。

しかし、通貨発行権を有する政府財政の実態とは、本来この考え方は整合しません。

PB目標を堅持する限り、当初予算では恒常的な支出が抑制され、必要な投資は「例外的」「臨時的」なものとして補正予算に押し込められます。

その結果、国家として本当に必要な長期投資が、制度上の理由によって不安定な形に追いやられているのです。

今回の補正予算は規模こそ大きいものの、日本経済が直面している本質的な課題、すなわち供給力の低下や産業基盤の弱体化、長期停滞といった問題に真正面から向き合ったものとは言い難い内容でした。

いま求められているのは、「補正で凌ぐ経済運営」からの脱却です。

当初予算にこそ国家の覚悟と方向性を明確に示し、長期的な成長と国民生活の安定につながる財政運営へと転換していくことが不可欠だと考えます。

2026年度(来年度)の通常予算は、石破内閣が閣議決定した「骨太の方針2025」に基づき、プライマリーバランス黒字化目標に縛られて編成されます。

その意味で、これは政策判断というよりも、制度として引き継がれた「石破内閣の負の遺産」と言わざるを得ません。

高市政権の誕生は政権交代(野党への交代)ではないため、前内閣の閣議決定を即座に否定することが難しく、高市内閣であっても来年度の通常予算に十分な投資を乗せられない構造になっています。

そもそも、戦闘機開発を補正予算でやる国などない。

長期投資を可能にするためには、2026年5月の「骨太の方針」議論において、PB目標を明確に破棄する必要がある。

高市内閣が掲げる経済安全保障や防衛力の強化を真に実現するためには、「プライマリーバランス黒字化目標を撤廃し、長期的な予算の裏付けをもって企業の投資を促すこと」が不可欠であり、国民はその声を上げていくべきです。