書類の防災か、実戦の防災か――川崎市が選ぶべき道

書類の防災か、実戦の防災か――川崎市が選ぶべき道

12月8日深夜に発生した三陸沖M7.5地震は、幸いにも甚大な被害には至らなかったものの、北海道・三陸沖での「後発地震注意情報」が史上初めて発表されました。

そして12日午前11時44分には、青森県東方沖を震源とする、深さ20キロ、マグニチュード6.9の地震が発生し、青森県つがる市や北海道函館市などで震度4を観測しました。

この地震を受け、気象庁は北海道太平洋沿岸中部、青森県太平洋沿岸、岩手県、宮城県に津波注意報を発表し、その後、午後2時5分にすべて解除されています。

それにつけても、相次ぐ地震を前にして改めて思うのは、我が国は超自然災害大国であるにもかかわらず、「最悪を想定する」という国家的覚悟が十分に根付いていません。

本来であれば、日本列島は世界屈指の地震多発地帯であり、「過去最大級の災害は未来にも起こりうる」という認識が社会全体で共有されていなければなりません。

しかし現実には、東日本大震災から14年が過ぎた今日でさえ、「あれほどの地震は当分来ないだろう」「防災は行政任せでよい」「備蓄は最低限で十分だろう」といった楽観バイアスが依然として残っています。

この思想的欠如が、制度の不備をもたらします。

制度面では、国も自治体も膨大なハザードマップや防災計画を整備しているにもかかわらず、それらが「日常運用」に落とし込まれていないという問題があります。

備蓄は人口規模に対して圧倒的に不足し、企業との役割分担は曖昧で、避難所は容量不足のままです。

在宅避難を支える制度も不十分で、訓練は形式的で実戦性に欠けます。

つまり「書類としては立派だが、実効性が伴わない制度」があまりに多いのです。

専門家によれば、東日本大震災で破壊されたプレート境界の「南側」と異なり、青森沖から北海道にかけての「北側」は、300年以上巨大破壊が起きていない領域であり、ひずみエネルギーが蓄積されたまま残されています。

この物理的現実は楽観バイアスとは無関係に、巨大地震発生の蓋然性を著しく高めています。

さらに川崎市を含む首都圏は、超高密度人口、老朽インフラ、物流依存度の高さという都市構造上の制約を抱えています。

つまり今回のような地震が後発地震の「前兆」であると断定できるわけではありませんが、こうした地震の有無にかかわらず、巨大災害リスクが構造的に内在していることには変わりありません。

では、この現実の中で川崎市は何を優先すべきでしょうか。

まず行政備蓄を「夜間人口」ではなく「昼間人口」基準に改めることが急務です。

川崎市は昼間人口の方が多く、通勤者や来街者を含めれば150万人を大きく超えますが、備蓄計画は夜間人口を前提にしています。

現状の備蓄量では巨大災害初期の72時間を支えきれません。

特に携帯トイレ、水、カセットガス、寝具類は決定的に不足しています。

企業備蓄の制度化も重要です。

川崎市は大企業や物流拠点が集中する都市ですが、企業備蓄は「お願いベース」のままで義務がありません。

巨大災害時に行政がすべてを担うことは不可能であり、一定規模以上の事業者には条例による備蓄義務や努力義務を課し、必要なインセンティブを設けるべきです。

避難政策についても転換が必要です。

川崎市の避難所は物理的に人口を収容できず、「全員避難」は不可能です。

これからの防災は、マンション住民の在宅避難を基本とし、木造密集地域のみ避難所利用を優先させるなど、分散避難戦略を取らなければなりません。

福祉避難所の拡充も必須です。

さらに医療と物流のネットワークを多重化する必要があります。

川崎市は首都圏物流の要衝であり、物流の麻痺は市民生活の即時停止を意味します。

医療用酸素や医薬品の備蓄、配送センターの二重化、災害時優先ルートの設定など、生命線となるネットワークを守る取り組みを強化しなければなりません。

通信手段についても、携帯回線への過度な依存を改めるべきです。

地震直後は携帯回線がほぼ確実にパンクします。

FMラジオ、防災無線、屋外スピーカー、ドローン広報など、一次的な情報伝達手段を整備することが重要です。

巨大地震は、今回の地震とは無関係に、今日起きても不思議ではありませんし、20年後に起きても不思議ではありません。

重要なのは、平時こそ備える社会をつくることであり、これが150万人都市・川崎市の生命を守る唯一の道だと考えます。