日本を縛り続けた危機指標の正体――政府債務対GDP比率

日本を縛り続けた危機指標の正体――政府債務対GDP比率

日本の財政について語られる際、「政府の借金が大変だ」という言説はいまだ根強く残っています。

とりわけオールドメディアは、政府債務対GDP比率が高いことを根拠に「日本は破綻寸前だ」と不安を煽り続けています。

一方で、財務省(旧大蔵省)は長年にわたり緊縮財政を正当化する言説を積み上げてきました。

その歴史をたどることで、日本に蔓延する「借金恐怖」がどのように形成されたのかが見えてきます。

バブル崩壊後、日本はデフレに陥り、物価も所得も伸びなくなりました。

このため名目GDPが停滞し、結果として政府債務対GDP比率は上昇したのです。

しかし、金利は低く、国債は安定的に消化され、日本政府は自国通貨建ての国債しか発行していませんので、制度上の破綻リスクは存在しません。

本来この比率悪化は、デフレが原因であり、財政危機とは関係がないのですが、この指標を根拠として財政危機論が広がりました。

重要なのは、政府債務対GDP比率が財政運営上の制約ではなく、政治的・世論操作のために利用されてきた“演出された指標”にすぎないということです。

さらに、制度が異なる他国との単純比較に用いることで、「危機」を意図的に強調する道具ともなりました。

制度上の破綻リスクがないにもかかわらず、財務省は政府債務対GDP比率の分子(=債務)を実際に縮小させることを目的として、2000年代にプライマリーバランス黒字化目標を政策化しました。

これは政府財政を家計簿と同一視した誤った考え方に基づき、国債発行を制限し、緊縮を制度化する仕組みでした。

その後も2010年代に入ると、「国の借金は国民一人あたり○○万円」「将来世代にツケを回すな」といった情緒的な宣伝がさらに強まっていきました。

けれども、政府の債務は民間の資産の裏返しであり、むしろ将来の国民に資産を残す側面があります。

にもかかわらず、この基本的な制度事実は、ほとんど語られませんでした。

財務省は、「政府は通貨を発行できる」「自国通貨建ては返済不能にならない」という根本原理を、あえて国民に知らせてこなかったのです。

そして実際に、2020年代のコロナ禍で政府は巨額の財政支出を実施したものの、国は一向に破綻せず、インフレも暴走しませんでしたし、むしろ名目GDPが拡大して経済は支えられました。

財務省が前提としてきた「財政支出は危険」という主張は、現実によって明確に否定されたわけです。

そもそもPB黒字化目標は、デフレ時代の思考様式に過ぎず、インフレ局面では政策的合理性を失っています。

財務省のプロパガンダは、「数字に恐怖を与えること」「メディアや学界との連携」「善意を装った物語」の三点によって成功しました。

結果として国民は「緊縮こそ正しい」と信じ込まされてきました。

なぜそこまで国債発行を忌避させようとしたのか。

その理由は明確です。

国の支出を統制する権限こそが、財務省にとっての根源的な権力であり、その権力を維持するために、財政制約という“物語”が必要だったのです。

そしてその帰結が、投資不足と国力低下を招いた「失われた30年」でした。

いま必要なのは物語の転換です。

国債は国民資産であり、通貨発行は国家主権の根幹です。

必要な投資を行えば、国力は再生し、債務対GDP比率も自然と改善します。国にできないのではなく、「できない」と思い込まされてきただけです。

私たちは「借金恐怖」という虚構から自由になり、事実に基づいた財政観を取り戻すべきです。

国の未来を切り拓く力は、いまここにあります。