知らす国の憲法――帝國憲法の本質

知らす国の憲法――帝國憲法の本質

現行憲法(以下、占領憲法)には、数多くの内在的矛盾が存在しています。

たとえば、人工妊娠中絶の問題です。

母体保護法は、経済的理由などによる人工妊娠中絶を認めていますが、これは刑法に規定される堕胎罪との整合性を欠き、実質的には「脱法的運用」とも言うべきものです。

占領憲法第97条が「現在及び将来の国民」の基本的人権を保障している以上、胎児の命を奪う行為は、憲法上の人権保障の理念と矛盾するのではないでしょうか。

そもそも、占領憲法が掲げる「国民主権」は、西洋の社会契約説や抵抗権思想に基づくものであり、過去の歴史や伝統(すなわち国体)との連続性を断ち、現世代の利益を唯一の基準とする思想です。

よく「大日本帝國憲法(以下、帝國憲法)は天皇主権の憲法である」と言われますが、帝國憲法には「主権は天皇に存する」との明文規定はなく、天皇は憲法の定める範囲内で統治権を行使していました。

したがって、天皇が勝手に法律を制定したり、行政を執行したり、あるいは天皇の命令によって司法権が侵されることもありませんでした。

これに対し、国民主権を掲げる占領憲法の下では、仮に国民多数が「皇室は不要」と判断すれば、歴史・伝統・文化を基盤とする国体そのものが否定され、皇室の廃止すら理論上、可能となります。

帝國憲法第1条の「天皇ハ之ヲ統治ス」は、天皇と国民が一体となって国を治めるという、古来の「知らす(しらす)」の思想を体現した条文です。

すなわち、占領憲法が国民主権であるのに対し、帝國憲法は国体主権の憲法なのです。

帝國憲法を起草した伊藤博文らが、ドイツの法学者グナイストから学んだのも、「憲法とは、その国の歴史・伝統・文化に立脚したものでなければならない」という原理でした。

帝國憲法は、伊藤博文ら起草者が明治天皇の「国憲起草ノ詔」に基づき、「我が国ノ体(国体)」──すなわち日本の歴史、伝統、文化、皇室のあり方を忠実に反映させて、10年以上の歳月をかけて制定されたのです。

ちなみに、占領憲法は、日本の歴史も伝統も文化も理解せぬ25名のGHQ職員によって、わずか6日間で起草されました。

憲法とは、単に「憲法」と題された文書を指すものではなく、天壌無窮の神勅、聖徳太子の十七条憲法、五箇条の御誓文、教育勅語など、日本の国体を根本原理とする「実質的意味の憲法」もこれに含まれます。

また、GHQによる占領政策とは、日本の伝統的な憲法観を覆し、日本の国力を弱体化させることを目的として、皇室の自治権の剥奪や、財閥および庶民の「家制度(家督継承)」の解体を進めました。

占領憲法の基本的精神は「個人主義」にあります。

個人主義は、家族や共同体の連続性を否定し、一神教的な世界観に通じるものであり、日本人が「祭祀の民」として培ってきた倫理観とは本来的に相容れぬ思想です。