「農協が価格を高止まりさせている」という誤解があります。
というより、そうした虚偽を意図的に広めている勢力が存在します。
これはまさに、「不必要な改革」を正当化するためのレトリックです。
小泉進次郎氏らに代表される、農業改革や規制緩和推進勢力は、「農産物の価格が高いのは、既存の規制によって競争が妨げられ、価格が下がらないからだ」という主張を掲げ、農協(JA)を悪者に仕立てようとしています。
いわば「価格が高止まりし、消費者が困っている」という物語を作り上げ、それをもとに“改革”を演出しているのです。
たとえば、「農協の中抜き」批判も、その延長線上にあるわけですが、農協解体を目論む勢力は「農協が農家から安く買い叩き、大きなマージンを取って消費者に高く売っている」と非難し、消費者の不満を利用して既存の秩序を壊そうとしているのです。
しかし、実際の米価は長期的に下落傾向にあります。
現に、1994年頃には1俵23,000円だったものが、2014年頃には12,000円を割るほどにまで下がっています。
なお、近年は一時的に価格が上昇していますが、これは肥料や燃料など生産コストの上昇によるものであり、構造的に見れば依然として農家の所得環境は厳しいままです。
したがって、「価格が高すぎる」という改革の根拠は、実態とは明らかに異なります。
そもそも、米の集荷における農協(JA)のシェアは現在およそ3割にすぎず、価格を独占的に決定できるような立場にはありません。
実際に価格決定の主導権を握っているのは、農協ではなくイオンなどのGMS(ゼネラル・マーチャンダイジング・ストア)に代表される小売業者です。
ここで注目すべきは、価格決定のプロセスが“逆向き”であるという点です。
小売業者はまず「消費者が購入できる価格」(例:5kgで2,000円)を設定し、その価格から逆算して卸売業者や集荷業者への買い付け価格を決定しています。
結果として、消費者が支払える価格に合わせて農家の販売価格が圧縮され、流通の上流に行くほど利益が削られる構造となっているわけです。
こうした構造の根本原因は、「消費者の所得不足」にあります。
小売業者が価格を低く抑えざるを得ない最大の理由は、消費者の所得が足りないこと、すなわちデフレによる実質賃金の下落と、長年の緊縮財政によって購買力が失われたことにあるのです。
したがって、農協や流通業者を悪者に仕立てて「改革」を進めても問題の根本的な解決にはならず、むしろ、農家の経営をいっそう圧迫し、ひいては食料安全保障を脅かす結果となりかねない。
税は財源ではなく、国債発行も未来世代への負担の先送りではありません。
高市内閣には、正しい財政観に立脚し、真に国益に資する食料安全保障政策を推進してもらいたい。


