維新の愚かな要求——消費税の正体を知らぬ者たちへ

維新の愚かな要求——消費税の正体を知らぬ者たちへ

きのう、自民党は、連立入りを含めた日本維新の会との2回目の政策協議に臨み、維新の要求を概ね受け入れる方向で調整する方向のようです。

日本維新の会は12項目を合意テーマとして提示していますが、その中には「食料品への消費税を2年間停止する」という提案も盛り込まれています。

いかにも庶民に寄り添う政策のように聞こえますが、実はこの提案こそ、税制の本質をまったく理解していない、きわめて愚かな要求です。

なぜなら、わが国の「消費税」という税は、実際には「付加価値税」だからです。

そもそも藤田氏は、なぜ日本では「付加価値税」と呼ばずに「消費税」と呼んでいるのかも理解しているのでしょうか。

当時の大蔵省には、あたかも消費者が納税義務者であるかのように見せかける狙いもあったのですが、実はその背景にはもっと深い理由がありました。

それは、日本には過去に「付加価値税」が法制化された経緯があるからです。

この税制を最初に提案したのは、戦後日本の税制改革を指導したカール・シャウプ博士でした。

博士は、いわゆる「シャウプ勧告」で知られる人物であり、物品税などの多段階課税を廃止し、企業活動の各段階で生じた「付加価値」に課税する仕組みを提案しました。

ここで言う「付加価値」とは、売上から仕入れ(売上原価)を控除し、さらに減価償却を調整したものです。

しかし、この税制はあまりにも過酷であったため、当時の日本では評判が悪く、結局、施行には至りませんでした。

施行されなかったものの、法制化だけはされていたため、わが国は世界で最初に「付加価値税」を導入した国であると言ってよいでしょう。

その後、フランスの財務官僚モーリス・ローレが、シャウプの構想を変形するかたちで現在の「付加価値税(VAT)」を考案しました。

彼の目的は、自動車会社ルノーを救済するための「輸出補助金」を確保することにあったのです。

本来、輸出補助金はWTO協定で禁止されていますが、「付加価値税の輸出戻し金」という形式を取ることで合法的に支給できるようにしたのです。

この仕組みに対抗するため、他の欧州諸国も次々と導入に踏み切りました。

欧州で日本より高い税率の付加価値税が採用されているのはそのためですが、こうした事情を知らぬ人々が「欧州の消費税は日本より高い」と言って得意げになっているのが現実です。

そして日本も、経団連から「このままでは輸出企業が不利になる」との要請を受け、1989年4月に「消費税」という名の「付加価値税」を導入しました。

要するに、「消費税」とは実質的に「付加価値税」にほかなりません。

そして付加価値税は、輸出戻し金という形で大企業への補助金機能を果たしています。

その還付額は年間およそ7.5兆円にのぼり、そのうちトヨタなど輸出大企業向けが約9割(約6.75兆円)を占めているとされています。

この財源を負担しているのは政府ではなく、国内で消費税を支払っている私たち国民や、多くの中小零細事業者です。

これが、いまの日本の「消費税」の実態です。

こうした歴史的経緯を知らずに、軽々しく税制を語ることは極めて危険です。

維新の会は「食料品だけ、2年間はゼロ税率にすべきだ」と主張していますが、現実には消費者をさらに苦しめる“破壊的政策”にほかなりません。

なぜなら、食料品を非課税にすると、居酒屋や飲食店が仕入れる米や野菜などが「非課税仕入れ」となり、仕入れ税額控除ができなくなります。

つまり、飲食店にとっては事実上の“増税”となるのです。

さらに、輸出戻し税の仕組みと同様に、食品会社や大手スーパーには還付金が発生します。

しかし、その恩恵を受けるのは大企業ばかりで、労働者の所得に還元されることはまずありません。

利益の多くは株主配当に回り、やがて経団連が制度の延長を求め、このいびつな税制が固定化されるおそれが極めて高いのです。

税制であれ憲法であれ、歴史を知らぬまま論じる者は、本質に迫ることができません。

維新の提案は、まさにその浅慮さの典型です。

ことさらに「改革」を叫ぶ政党ほど、実は要注意なのです。