サイバー攻撃時代の自治体の責務

サイバー攻撃時代の自治体の責務

上下水道、電力、ガス、医療、交通などの公共インフラは、市民生活を支える基盤であり、これらを守ることは地方自治体にとっても重要な責務の一つです。

しかし近年、これらのインフラはサイバー攻撃の新たな標的となっています。

攻撃の影響は単なる情報流出にとどまらず、停電や断水、交通の混乱といった市民生活への直接的な被害に及ぶ可能性があります。

米国ではすでに、水道や送電網に中国やロシアとみられるハッカー集団が潜伏していた事例が報告され、国家安全保障上の大きな課題となっています。

こうした動きは、国だけでなく、自治体にとっても決して他人事ではありません。

ところが多くの地方議員や市民は、「防衛は国政が担うものだ」という認識を強く持っています。

これは戦後の教育や行政のあり方によって刷り込まれてきたもので、自治体には関係がないという思い込みを生んでいます。

その結果、インフラ防御を自治体の責務として位置づける視点が弱まり、投資や人材育成の優先度が下がってしまうという弊害が生じています。

例えば、委託事業や指定管理業務などに国籍条項を設けないことも大きな問題です。

川崎市のように上下水道や病院などの基幹サービスを直営あるいは指定管理者を通じて運営している自治体では、サイバーセキュリティの確保が大きな課題となっています。

自治体職員は数年単位で人事異動があり、専門知識が継承されにくいという組織的な弱点があります。

また、公共サービスの一部が民間委託されているため、事業者ごとにセキュリティ水準が異なるという問題もあります。

最も弱い部分を狙われれば、全体が危機に陥ることになります。

さらに、自治体には「攻撃的なサイバー能力」はなく、防御の多くを国の支援に依存せざるを得ません。

したがって、自治体として重要なのは、攻撃を受けた場合に迅速に国や県、関係する公益事業者と連携し、復旧に向けて指揮系統を整備しておくことです。

市民に対しては、被害が発生した際に正確な情報を迅速に伝え、誤情報や風評被害を防ぐことも自治体の重要な責任です。

水道や電気といったライフラインが止まった場合、市民の不安をいかに抑え、信頼を回復するかが問われます。

そのため、川崎市をはじめとする自治体は、まず現状の脆弱性を把握するためのセキュリティ調査を行う必要があります。

その上で、指定管理者や外郭団体も含めた統一的なセキュリティ基準を策定し、最低限の防御力を確保することが求められます。

加えて、中長期的にはAIやデジタルツインなどの先端技術を導入し、インフラの監視やシミュレーションを通じて被害を未然に防ぐ取り組みが必要です。

これは自治体単独では困難であり、国や研究機関との連携が欠かせません。

公共インフラを守ることは、市民の命と生活を守ることに直結しています。

「防衛は国だけの仕事」という思い込みを乗り越え、地方自治体が自らの責務としてサイバー防御を捉える視点を持たなければなりません。

サイバー攻撃は目に見えない脅威ですが、被害が表面化したときにはすでに遅い場合が少なくありません。

自治体には、防御力の強化を「市民の安全保障への投資」と捉え、持続的に取り組む姿勢が強く求められています。