ブルッキングス研究所のミレヤ・ソリス氏は、日本について「自由世界の安定した同盟国」であり、米中対立のなかで重要な役割を果たしうる存在だと評価しています。
とりわけ、同氏が強調するのは安全保障分野における日本の役割です。
北朝鮮のミサイル、中国の尖閣諸島周辺への進出、台湾への圧力などが現実の脅威となるなかで、日本に対し「もっと安全保障面での責任を果たせ」と期待していることは明らかです。
ただし、ソリス氏の日本評価はやや過大であり、日本の現実的な制約を十分に踏まえていない面があると考えられます。
我が国が氏の期待に応えるには単なる政策変更では済まず、その根底には憲法と独立の問題が横たわっています。
周知のとおり、現行憲法は占領下で連合国の手によって制定されたものであり、国際法上も帝国憲法の改正手続き上も正統性に大きな疑義があります。
戦後の安全保障体制を規定するこの憲法は、日米関係における従属構造を制度化してきました。
日本が真に主体的な安全保障プレイヤーになろうとするなら、この憲法問題=戦後体制問題に踏み込むことを避けることはできません。
さらに、安全保障面で自律性を発揮するためには、国民一人ひとりが確固たるナショナル・アイデンティティを持つことが不可欠となります。
言うまでもなく、ナショナル・アイデンティティは愛国心から醸成され、愛国心は独立国家としての誇りから育まれるものです。
しかしながら、我が国は敗戦国として戦後を「戦後依存体質」のなかで生きてしまいました。
その結果、独立国としての主体性や自尊心が十分に回復されず、これこそ克服すべき高いハードルとなっています。
加えて、経済の視点も忘れてはなりません。
わが国は「失われた30年」を経て成長力を大きく損ない、中間所得層の没落と格差拡大によって社会の安定性が揺らいでいます。
かつての高度成長期に築かれた国民経済の基盤が崩れ、いまや「国民の将来不安」が国家戦略の最大の足かせとなっています。
外交や安全保障でいかに存在感を示そうとしても、経済の持続的再生なくして真の国力回復はあり得ません。
米国は日本に自立的役割を求めつつも、同時に属米体制にとどめることで戦後秩序を維持してきました。
日本が本当に主体的に役割を果たすなら、必然的に戦後秩序そのものを問い直すことになります。
ここに日米関係の根本的ジレンマがあります。
このジレンマを超えるためには、憲法と独立の問題に正面から取り組むとともに、ナショナル・アイデンティティの回復を通じて愛国心を醸成し、経済の再生によって中間所得層を復活させ、安定した社会を取り戻すことが不可欠です。
ソリス氏の論文が日本を評価するのは歓迎すべきことですが、わが国の真の課題は「米国からどう見えるか」ではなく、「自立した主権国家としていかに再生するか」です。
安全保障、憲法、ナショナル・アイデンティティ、経済を結びつけてこそ、日本の未来を切り拓く道筋が見えてきます。