先端技術誘致で国益に貢献する川崎市の使命

先端技術誘致で国益に貢献する川崎市の使命

先日、トランプ米大統領が英国を訪問し、異例となる二度目の「国賓待遇」を受けました。

英国が同一の米国大統領を二度も国賓として迎えるのは史上初のことです。

「国賓もてなし」には、豪華な式典や王室との行事など、ソフトパワーの演出力があるのはよく知られています。

英国王室を用いた外交儀礼は国際的な注目を引き、英国の「威信」やブランド価値を高める手段となります。

しかし一方で、トランプ大統領を国賓として迎えることには英国国内で強い批判もありました。

それを承知のうえであえて実現した背景には、英国の危機感と戦略が透けて見えてきます。

この事例は、地方自治体である川崎市が自らの国際経済戦略を考えるうえでも示唆的です。

近年の英国は、EU離脱によって国際的な存在感が相対的に低下しつつあります。

その英国が再び国際秩序の中で影響力を保持するために選んだ道は、先端技術分野で米国と緊密に手を結ぶことでした。

実際、今回の訪英では「Tech Prosperity Deal」と呼ばれる協力枠組みが締結され、AIや量子技術、そして原子力・融合エネルギーの分野で巨額の投資と共同研究が発表されました。

ここから見えてくるのは、21世紀において覇権を左右するカギとなる分野が「AI(人工知能)」「量子技術」「原子力/融合エネルギー」であるということです。

AIは経済と軍事の両面で即効性を持ち、量子技術は暗号・計算・通信の常識を一変させ、原子力や融合エネルギーは安定したエネルギー基盤として不可欠です。

歴史を振り返れば、英国はかつて「蒸気機関」「海軍」「金融」といった先端分野を握ることで世界的地位を確立しました。

現代においても、先端技術を掌握することが国家の地位を規定するという構図は変わりません。

現状、日本は基盤モデルAIの開発力、量子コンピュータの商用化、原子力や融合エネルギーの実証といった分野で米中欧に比べて後れを取っています。

基盤モデルAIは研究自体は進んでいるものの、国際的な競争力は米中欧に比べ遅れているのが実情です。

量子コンピュータは基礎研究では強みがある一方、商用化では遅れが目立ちます。

原子力・融合エネルギーは研究基盤は整っているものの、政策や社会的制約のため実証・商用化で停滞しています。

とはいえ、日本の弱点は地方自治体にとっては好機になり得ます。

日本が遅れている分野の産業や企業を積極的に誘致し、支援することで、国家的に不足している部分を地域から補うことができます。

その受け皿となる十分な潜在力を備えた都市こそ、川崎市です。

川崎市は臨海部の産業集積や研究開発拠点を有し、AIデータセンター、量子技術スタートアップ、次世代原子力・融合の実証施設などを受け入れる基盤があります。

したがって、本市の国際経済戦略に「遅れをとっている分野の産業誘致」を明確に位置づけることで、国の補助金や規制緩和策とも連動しやすくなります。

英国が「二度目の国賓待遇」という政治的決断を通じて技術提携を国の将来に結び付けたように、川崎市もまた「先端技術誘致」という政策を国益に結び付けることができます。

日本の弱点を逆に強みに変える。

それこそが、川崎市が果たすべき国際経済戦略の使命であると考えます。