内部留保の山と萎む需要_必要なのは財政拡大だ

内部留保の山と萎む需要_必要なのは財政拡大だ

企業の内部留保が、いまもなお増え続けています。

一方で日本社会には、「経済」をいまだに「カネ」の多寡でしか捉えられない風潮が根強く残っています。

「日本にはカネがない!」といった荒唐無稽な言説を信じている国民も少なくありません。

しかし事実は逆で、日本は世界一の「対外純資産国」なのです。

2024年第4四半期末のデータによれば、日本の対外純資産は世界最大です。

一方で、世界で最も対外「純負債」を抱える国は米国であり、その額は実に約3,885兆円にのぼります。

もし経済力がおカネの量で決まるのなら、日本こそが世界最強の経済大国であり、米国は世界最弱の経済小国ということになってしまいます。

もちろん、そんなはずはありません。

経済力とはおカネの量ではなく、「モノやサービスを生産する能力」にこそあります。

経済力を強化するためには、「設備投資」「公共投資」「人材投資」「技術開発投資」という4つの投資を拡大することが不可欠です。

しかし我が国は、1990年代以降の長期デフレの影響もあり、この4投資を抑制してきました。

その結果、日本は「世界最大のカネ持ち国家」でありながら、肝心の経済力を高めることができず、「カネはあるけど経済弱小国」という歪な姿に落ちつつあります。

何度でも言います。

未来をつくるのは投資であり、投資を怠る国に成長も繁栄もありません。

では、日本企業はなぜ積極的に投資しないのでしょうか。

答えは簡単です。

大規模かつ継続安定的な需要が見込めないからです。

人口減少による市場縮小が予測され、将来的な需要の「安定的拡大」に自信を持てない企業は、設備投資にも人材投資(=人件費の増加)にも踏み切れません。

その代わりに企業が選んだ道は、内部留保の積み上げです。

政府は内部留保を社員の賃上げや設備投資へ振り向けるよう要請していますが、企業は慎重姿勢を崩さず、現預金の山をさらに積み上げています。

グラフのとおり、一般企業の現預金は、355兆円(2025年3月末)にも達し、増え続ける一方です。

ところで、「利益剰余金=内部留保」とする報道をよく見かけますが、これは誤解です。

利益剰余金とは、企業がこれまで積み立ててきた利益の総額を意味しますが、その全額を現預金として保有しているわけではありません。

その一部は実物資産の購入や借入金の返済に充てられ、残った部分、すなわち現預金として保有されている部分が「内部留保」と呼ばれるのです。

問題は、企業が内部留保をため込む一方で、実質賃金は低迷し、消費税負担も重く、家計の消費需要が拡大しないことです。

このままでは企業にとって投資のインセンティブは生まれません。

間違いなく言えることは、「未来の需要」を確信できなければ企業が内部留保を吐き出すことはない、ということです。

では、需要をつくり出すのは誰か。

むろん、答えは政府です。

少なくとも、政府はGDP比5%程度の財政支出または減税を継続的に行う必要があります。

ところが、自民党総裁選の候補者の顔ぶれを見ますと、高市氏を除き、ほとんどが緊縮財政派(=財務省派)です。

世論調査では、相変わらずポエマー進次郎氏がトップを走っているのを見るにつけ、日本の経済政策の先行きにまったく明るさを感じません。