日本経済の長期停滞は、つまるところ企業の国内支出不足に起因しています。
1990年代後半以降、企業部門は恒常的に資金余剰を抱え込み、投資よりも貯蓄が先行する構造に陥りました。
政府はこの問題を正面から是正せず、結果として需要不足が慢性化し、デフレと不況が長引いてきたのです。
現在、コストプッシュ型インフレとサプライロス型インフレが併存するなかでも、企業の貯蓄率は依然として高止まりしています。
需要が弱いまま物価だけが上昇する構図は、家計と企業双方を圧迫し、日本経済をさらに脆弱にしかねません。
よって、この停滞を断ち切るには、政府が財政支出を拡大するほかはない。
とりわけ企業部門の支出不足を補うため、GDP比で5%程度の財政支出または減税を継続的に実施することが必要です。
これは消費税の撤廃に匹敵する規模であり、民間需要を恒常的に下支えする効果を持ちます。
GDP比5%程度の財政出動の規模は、企業部門の資金余剰(資金循環)と経常黒字の中心値から導く実務的なマグニチュードであり、インフレを加速させるどころか、2%安定の「名目の骨」を形成します。
減税や支出拡大に対しては「財源はどうするのか」との声が必ず上がりますが、国債は借換えによって運用され、財務省自身もその仕組みを認めています。
我が国の問題は「負債が大きすぎる」ことではなく、むしろ「負債が小さすぎる」ことにあります。
企業と政府を合わせたレバレッジ構造でみれば、日本は他国に比べて健全すぎるほど健全なのです。
また「減税はインフレを加速させる」との批判も的外れです。
現在のインフレは供給制約要因が主体であり、有効需要が不足している状況では、財政注入はむしろ物価安定化に寄与します。
過熱リスクが生じた場合でも、自動安定化装置としての税制や社会保険料制度が働くため、行き過ぎたインフレに陥る心配はありません。
いま必要なのは「財政赤字の縮小」という目先の目標ではなく、「ネットの資金需要を適正にマイナス化し、名目安定の骨をつくる」という中期的な視座です。
これにより物価は2%前後で安定し、家計所得が増え、最終的に財政の持続可能性も高まります。
日本経済の真の再生とは、企業貯蓄率の呪縛を断ち切り、政府が積極的に需要を創出することでしか実現できないのです。
いまこそ従来の誤った財政常識を打ち破らなければならない。