年金機構の強権徴収が企業と雇用を破壊する

年金機構の強権徴収が企業と雇用を破壊する

大阪府高槻市に「シーガル」という運送会社があります。

同社では、経理担当の男性社員が会社の税金や厚生年金など約5,000万円を横領し、中国にいる妻に送金していたことが発覚しました。横領した男性社員はその後、病死しました。

この横領によりシーガルには多額の滞納金が残りましたが、税務署や労働局は法制度に則って納付の猶予を認めました。

しかし年金事務所だけは猶予を認めず、売掛金を差し押さえました。

その結果、取引先は7社から2社に減り、売上は3分の1以下に激減。

トラックは30台から7台に減少し、30人いた運転手のうち20人以上が解雇されました。

シーガルはこの対応に納得できず、2024年12月に大阪地裁へ提訴しました。私は政治家の端くれとして、日本年金機構(吹田年金事務所)の対応に強い憤りを覚えます。

近年、年金の差し押さえが増加している背景には、2010年に設立された日本年金機構が非公務員型の特殊法人として発足し、徴収率向上を至上目標とする体質へ変質したことがあると指摘されています。

シーガルは当初、「横領などで資金力を失った場合には納付を猶予できるはずだ」と窓口で訴えましたが、職員は「そんな法律も条文もない」と回答したといいます。

その後、制度の存在は認めましたが、今度は「正式な申請がなかったから対処できなかった」と説明しました。

さすがにシーガルも納得できず、訴訟に踏み切りました。

現在、同社の社長は2年間無給で働き、経理担当者も月額10〜15万円の低賃金で勤務を続けています。

必死の努力にもかかわらず、こうした理不尽な対応を受けている現状は到底看過できません。

この問題はシーガルだけに限られず、氷山の一角です。

実際、年金機構による強権的な差し押さえが全国各地で事業を直撃し、経営や雇用を破壊している事例が報じられています。

これらに共通しているのは、突然の差し押さえが資金繰りを直撃して事業継続を困難にしてしまうことです。

また、本来存在する猶予制度が十分に周知されず、救済措置が活かされないまま処分されている点も見逃せません。

徴収率ノルマを優先した機械的な対応が、地域経済と雇用に深刻な影響を与えています。

とりわけ運送業界は、燃料費・車両維持費・人件費といった固定費が高く、利益率は数%にとどまります。

長年にわたり運賃単価は据え置かれ、「2024年問題」による労務コスト増が重なり、経営の余裕はますます失われています。

運賃の入金は1〜2か月先になることが多く、その間にも燃料代や社会保険料の支払いが発生するため、中小企業ほど「払いたくても払えない」状況に陥りやすいのです。

それにもかかわらず、日本年金機構は裁判所の命令なしに売掛金や預金を差し押さえる権限を持ちつつ徴収率ノルマを課されているため、地域事情や業界特性を無視し、数字目標だけを優先した差し押さえが横行しています。

一度事業基盤を失えば、立て直しは極めて難しくなります。

この問題の深層には、1990年代後半からの「新自由主義的構造改革」があり、その過程でメディアと世論が「公務員=悪」と煽り立て、改革を後押ししたことが背景にあります。

かつて年金徴収を担っていた社会保険庁は国家公務員による運営で、公務としての責任感が制度を支えていました。

しかし年金記録漏れ問題を契機に「公務員の怠慢」と批判され、メディアや世論も「官から民へ」「公務員削減こそ改革」と改革を求める声を強めました。

その結果、2010年に日本年金機構が発足しました。

職員は非公務員化され、「公共性」より「成果・効率・徴収率」を優先する体質へと変わりました。

社会保障は「効率経営」へと置き換えられ、現場職員には数値目標の達成が優先される状況が生じています。制度は理念を逸脱し、国民や事業者を苦しめる存在となってしまいました。

忘れてはならないのは、この過程でメディアと世論が果たした役割です。

「公務員=悪」と単純化した報道が繰り返され、多くの国民が「公務員を減らせば良くなる」と信じ込まされました。

その結果、日本年金機構の非公務員化と徴収強化が容認され、強権的徴収が常態化する土壌が築かれたのです。

つまり、これは単なる一職員の不手際ではなく、制度設計そのものに組み込まれた欠陥です。

年金制度は本来、持続可能な雇用と安定的な納付を支えるための仕組みであるべきです。

しかし現実には、制度自体が事業者を追い詰め、雇用と納付基盤を破壊する「自己矛盾」に陥っています。

私は政治の一端を担う者として、この矛盾を正し、社会保障の公共性を取り戻すために全力を尽くす決意です。