デイサービス(通所介護)の閉業が相次いでいます。
デイサービス(通所介護)とは、高齢者が日中に施設へ通い、入浴や食事、機能訓練、レクリエーションなどを受けられるサービスです。
自宅で暮らす高齢者にとっては「在宅生活を続けるための支援の場」であり、家族にとっては介護負担を軽減する「レスパイト(休息)の機会」として重要な役割を果たしています。
しかし現在、このデイサービスを運営する事業所の閉業や倒産が急増しています。
介護保険制度が導入された2000年4月以降、株式会社の介護市場への参入が認められました。
その結果、デイサービスを中心に株式会社による事業展開が一気に広がり、各地域で事業者の乱立が生じました。
当初は利用者の利便性向上やサービス多様化に資するものと期待されましたが、現在ではその副作用が顕在化しています。
統計によれば、2024年の介護事業者倒産件数は過去最多の172件に達し、その内訳で最も多いのがデイサービスを含む「通所・短期入所系」で、全体の約半数を占めました。
背景には、過当競争による稼働率の低迷、物価高や人件費の上昇、さらにコロナ禍に借り入れた資金の返済再開などが重なっています。
特に、株式会社主体の小規模デイサービスは資本力に乏しく、経営環境の変化に耐え切れずに倒産に至るケースが増えているのです。
加えて、閉業した事業所の職員が介護業界を離れるケースが事実として存在し、業界全体の深刻な課題の一つとされています。主な理由は以下のとおりです。
1.職を失ったことによる業界への失望
閉業は、それまで働いていた職員にとって大きなショックです。特に、真面目に働き、利用者との関係を築いてきた職員ほど、「また同じことが起こるのではないか」「頑張っても報われない」と感じ、介護業界そのものに失望して他業種への転職を選ぶことがあります。
2.再就職の難しさ
閉業後も引き続き介護業界で働きたいと考える職員は多いものの、希望する勤務形態や待遇、人間関係の良い職場を見つけるのは容易ではありません。また、閉業という経歴が次の就職活動で不利になるのではないかと不安を抱く人もいます。
3.より良い労働条件を求めて
低賃金や劣悪な労働環境が閉業の一因となっている場合、職員はこれを機に、より高い給与や安定した雇用、休日が確保できる他業種への転職を検討します。特に接客業や事務職、工場勤務など、介護職で培ったコミュニケーション能力や忍耐力を活かせる仕事は選択肢になりやすいです。
このように、閉業は単に一つの事業所がなくなるだけでなく、長年培ってきた人材が業界から流出するきっかけとなり、慢性的な人手不足に拍車をかけるという負の連鎖を引き起こしています。
さらに、株式会社の新規参入はデイサービス市場だけでなく、介護市場全体の構造を大きく変える要因となりました。
株式会社による多様なサービスが増える一方で、比較的介護度の軽い高齢者は民間施設に流れ、特別養護老人ホーム(以下、特養)には要介護度の高い重度者が集中する傾向が強まりました。
その結果、特養では医療的ケアや夜勤体制の強化が不可欠となり、人件費や運営負担が増大しました。
加えて、人材そのものが株式会社と奪い合いとなり、特養を運営する社会福祉法人の経営をも圧迫しています。
つまり、株式会社参入によって介護市場のサービスは拡充された一方で、過当競争という副作用がデイサービスの倒産急増として現れ、さらに軽度者と人材が分散することで、特養には重度者負担と人手不足が集中し、経営悪化へとつながっているのです。
この全国的な流れは、川崎市においても例外ではありません。
ゆえに川崎市としては、特養を含む社会福祉法人への経営安定化支援、介護職員への家賃補助や地元人材育成などの人材確保策、デイサービス閉業時の利用者・職員の受け皿づくり、さらには軽度者向け独自サービスの拡充と重度者を受け入れる特養への重点補助など、公共性を重視した取り組みが求められます。
介護事業への民間参入を認めた2000年4月以降の介護保険法施行は、1990年代後半から加速したネオリベラリズムに基づく「構造改革」の一環でした。
その理念は、市場競争を通じて効率化を図るというものでしたが、実際には介護現場に過当競争と人材流出をもたらし、特養の経営まで圧迫する結果を招いています。
だからこそ、川崎市や全国の地方自治体が取るべき方向性も、日本の政治が進むべき道も同じです。
すなわち、介護を市場競争に委ねるのではなく、公共性を回復させる「逆構造改革」こそが、地域から国全体に至るまで、持続可能な介護制度を築くために不可欠です。