本年6月に公表された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2025」では、財政健全化目標に関して「2025年度から2026年度を通じて、可能な限り早期の国・地方を合わせたプライマリー・バランス(PB)黒字化を目指す」と明記されました。
プライマリー・バランスとは「基礎的財政収支」とも呼ばれ、社会保障や公共事業などの政策的経費を、国債発行に頼らず税収等で賄えているかを示す指標です。
もともとは2001年、小泉内閣の下で竹中平蔵氏によって導入されたものですが、法律に基づくものではなく閣議決定にすぎないため、政府の判断ひとつで廃止可能な目標にすぎません。
当初、この目標の目的は「政府債務の対GDP比率を安定化させ、やがて引き下げること」にありました。
債務対GDP比率は、既発債と利払い費、それにPB収支を合算して名目GDPで割ることで算定されます。
当時は長期デフレ下でGDPが伸び悩み、比率を下げるには政府支出を削減してPBを黒字化するしかないと考えられてきました。
しかし現在は状況が一変しています。
コストプッシュ・インフレとサプライロス・インフレに伴う物価上昇によって名目GDPが拡大しており、PB黒字化の有無とは無関係に政府債務の対GDP比率は自然に低下しつつあります。
つまり、導入当初に掲げられた目的は事実上、すでに達成済みといえます。
ところが、内閣府のシミュレーションをみると、2026年度にPB黒字を達成し、その後も黒字幅が拡大していくシナリオが描かれています。
しかも、その裏側には「政府の黒字は家計の黒字減少と企業の赤字拡大によって成り立つ」という前提が置かれています。
これは国民経済計算の恒等式を考えれば当然で、政府、家計、企業、海外の四部門の収支は必ず一致するため、政府が黒字を出せば他の部門が赤字を背負わざるを得ないのです。
企業が投資のために赤字を計上することは本来健全な姿であり、経済成長に不可欠です。
しかし政府が黒字化を追求すれば、増税や歳出削減によって家計や企業から資金を吸い上げることになり、民間部門のネット資金需要がマイナスに転じます。
結果として投資が抑制され、経済成長は阻害されます。
もはやPB黒字化目標に固執する合理性は存在せず、むしろ国民生活を犠牲にする愚策にほかなりません。
それでも政府が目標を掲げ続けるのは、国際的な対外発信や財務官僚の既得権的思考にすぎないといえるでしょう。
この目標に固執し続ける限り、景気の腰折れは避けられず、国民生活はますます苦しくなります。
財政運営は「国の借金を減らすこと」ではなく「国民生活を安定させ、持続的成長を実現すること」を目的に据えるべきです。
PB黒字化目標は、理屈としてもその役割をすでに終えていることが明らかで、一刻も早く廃止されるべきです。