ウクライナ支援とロシア制裁_憲法9条が封じるはずの戦争権限

ウクライナ支援とロシア制裁_憲法9条が封じるはずの戦争権限

終戦記念日の8月15日、トランプ米大統領はロシア・ウクライナ戦争の終結に向け、プーチン大統領とアラスカ州で会談すると発表しました。

ロシアは、かつて北方領土を不法に占拠したソ連の継承国家であり、いまなお返還に応じていません。

その意味で、日本にとって友好国とは言えない存在であることは確かです。

しかし、ロシアが2022年に開始した「特別軍事作戦」は、我が国に直接向けられた行為ではありません。

それにもかかわらず、日本政府は米国の要請をほぼ無条件で受け入れ、経済制裁、金融制裁、資産凍結といった措置を講じ、さらにはウクライナへの装備供与や財政支援にも踏み出しています。

これらは果たして占領憲法9条のもとで許容される行為といえるのでしょうか。

まず、国際法上の「交戦権(right of belligerency)」とは何かを整理します。

交戦権とは、戦争状態にある国家が有する包括的な権利であり、戦争の開始(開戦権)、遂行(戦争遂行権)、終結(講和権)という全過程を含みます。

戦時国際法上、これらは不可分の一体として理解されています。

たとえば講和条約を締結する権利もまた、この交戦権の構成要素です。

一方、日本政府は占領憲法9条2項の「交戦権否認」を、国際法の原義よりも狭く解釈してきました。

すなわち「戦争遂行の権利」のみに限定し、開戦権や講和権はそもそも議論の対象にしてこなかったのです。

これは、占領期におけるGHQ草案の翻訳や国内法への適用の過程で生じた、日本独自の矮小解釈の産物です。

このように国際法と日本政府解釈の間には大きな隔たりがあります。

その結果、日本は国際法上の交戦権の全体像を視野に入れず、国内法的に再定義した枠内だけで議論を行ってきました。

しかし、この政府解釈を前提にしても、国際法上は通常、経済制裁や金融制裁は安全保障上の「非友好的行為(retorsion)」に分類されますが、その域を超え、国家の基幹的機能を損なうほどの規模に達する場合は、実質的な「経済的戦争(economic warfare)」とみなされるのが、もはや否定できない国際政治の現実です。

とりわけ、武器・装備の供与や軍事行動の後方支援は、戦争遂行の一部として交戦権の行使に極めて近い性質を持ちます。

もし現行憲法が真に憲法としての効力を持つとするならば、交戦権の行使は明確に禁じられている以上、こうした経済制裁や軍事支援は、憲法9条違反と評価せざるを得ません。

政府は、国際社会との連帯や「価値観外交」を理由に正当化していますが、それは憲法の明文規定と正面から衝突します。

戦争の開始・遂行・終結を一体のものとみる国際法の視点に立てば、我が国は戦争当事国の権能の一部を事実上行使していることになります。

にもかかわらず、政府は「武力行使でないから9条に反しない」とする自前の解釈に依拠し、国民に説明責任を果たしていません。

いまこそ、占領憲法下の独自解釈に安住するのではなく、国際法と憲法の交差点に立って、我が国の行為が本当に立憲主義に基づいているのかを問い直し、その是非を国民的議論に付すべき時です。