その関税は為替への布石_見えてきた第四の通貨合意

その関税は為替への布石_見えてきた第四の通貨合意

トランプ米政権は令和7年8月7日、主要な貿易相手国に対し相互関税を発動し、日本には一律15%の上乗せ関税が適用され、牛肉やマヨネーズなどの日本産品に対する税率は大幅に引き上げられました。

しかしこの措置は、先月の日米間の合意内容とは整合せず、関税率が15%を超える品目には追加上乗せをしないという原則が反映されていませんでした。

こうした事態を受け、訪米中の赤澤亮正経済再生担当大臣は、アメリカの閣僚と相次いで協議を行い、アメリカ側から「内部の事務処理上の不備により、合意内容に沿わない大統領令が発出された」との説明を受けたとされています。

そして今後、対象の大統領令を適時修正する措置が講じられる予定であること、さらには、関税の引き下げを盛り込んだ別の大統領令も同時に発出される見通しであることが明らかになりました。

赤澤大臣は「本来の合意と異なる内容が適用されたことは極めて遺憾だ」と述べつつも、米側からも同様に「遺憾」との認識が示されたと報告しています。

とりわけ注目すべきは、今後修正される大統領令には、8月7日以降に課された関税のうち、日米合意を上回る部分について、遡及的に払い戻し(リファンド)を行う措置が付されるという点です。

赤澤大臣は「半年や一年も適用を放置することはあり得ず、常識的な範囲でアメリカ側が速やかに対応すると理解している」と述べ、引き続き実務レベルでの協議を進める考えを示しました。

理解しているのが日本側だけではないことを願いたいところです。

さて、この一連の関税交渉の背景には、単なる貿易摩擦とは異なる、より深層的な戦略意図があることにも注意を払う必要があります。

評論家の中野剛志先生は、今回の関税政策の本質を「通貨戦争」と位置づけています。

米国は、ドルが基軸通貨である限り、自国が経常赤字を出し続けざるを得ないという構造にあると理解しており、その負担を解消すべく、他国の通貨安・輸出主導構造に圧力をかけることで、国際通貨体制の再編を狙っているとされます。

米国にとって関税政策は、単なる保護主義の手段ではなく、為替に対する間接的圧力、すなわち「ドル安誘導」のための政治的圧力装置なのです。

こうした政策運用の法的根拠となっているのが、「国際緊急経済権限法(IEEPA)」であり、本来は国家安全保障上の非常時に限って発動されるべきこの法律が、平時の経済交渉にまで拡大解釈されている現状があります。

だからこそ、形式的な合意文書の有無にこだわる批判は、こうした米国側の戦略的な背景を理解しない表層的な議論にとどまっていると言わざるを得ません。

トランプ政権が目指しているのは、表面的な関税調整ではなく、通貨体制そのものの再設計です。

今回の一連の措置を正しく読み解くには、この「通貨戦争」という視座を欠かすことはできません。

いずれこの流れは、かつてのプラザ合意、スミソニアン合意に続く「第四の通貨合意」へと向かう可能性を秘めています。

日本が直面しているのは、単なる一時的な関税問題ではなく、より大きな国際通貨秩序の再編という歴史的局面です。

だからこそ、問われているのは単なる技術的対応ではなく、この通貨戦争の時代において、いかなる経済戦略と通貨主権を持って臨むのかという、国家としての覚悟にほかなりません。