ふるさと納税の寄付総額が、ついに1兆2700億円を超え、過去最高を更新しました。
総務省の発表によれば、昨年度(2024年度)の寄付総額は1兆2728億円にのぼり、制度開始以来初めて1兆円を突破した前年度からさらに1553億円増加しています。
一見すると、ふるさと納税は「地方を応援する素晴らしい制度」のように思えるかもしれません。
しかし、その実態はどうでしょうか。
制度の導入以来、日本各地の自治体は返礼品競争や宣伝合戦に駆り立てられ、都市部の財源は急速に失われています。
たとえば、昨年度の寄付受入額が最も多かった宝塚市では256億円、そのほとんどが市立病院に対する寄付です。
北海道白糠町、大阪府泉佐野市、宮崎県都城市なども寄付額で上位に名を連ねています。
一方、税収を流出させた側はどうかといえば、横浜市では343億円、名古屋市では198億円、大阪市では192億円、川崎市でも154億円の住民税が他の自治体に流れています。
しかも、これらの減収額は年々拡大しています。
ここで重要なのは、ふるさと納税が新たな価値を生み出しているわけではないという事実です。
自治体Aに入るはずだった住民税が、制度を通じて自治体Bに移動しているにすぎません。
その移動の過程で、実に多くのビジネスが介在しており、寄付者が支払った金額のうち、少なからぬ部分が中間業者に吸い取られています。
ふるさと納税関連のプラットフォーム事業者、広告代理店、コンサルタント。
彼らは、サイト制作やプロモーション、返礼品の選定などを代行することで、寄付のたびに「チャリン、チャリン」と報酬を得ています。
そもそも、自治体の職員が魅力的なWebページを作成し、テレビCMを打ち、ECサイトを最適化するといったマーケティング戦略を展開できるはずがありません。
それは職種が違うというだけの話です。
たとえるなら、大工に外科手術を依頼するようなものであり、できないのは当然のことです。
そこへ「自称コンサルタント」たちが入り込み、ビジネスを拡大していったのがふるさと納税の現実です。
制度の導入によって潤ったのは地方ではなく、あくまで中間事業者たちでした。
納税者の善意が、地方を救うどころか、ビジネスの養分と化してしまっているのです。
ふるさと納税の最大の問題は、こうした構造が「税制による地域間の健全な財源配分」を破壊し、代わりに「税収の奪い合い」を制度化してしまった点にあります。
しかもその競争は、地方自治体にとって本質的な行政サービスとは無関係な領域で行われている。
自治体が住民福祉の向上よりも返礼品の目新しさを追い求め、広告費や外注費に資源を割かなければならない状況は、まさに本末転倒といえます。
この制度を支えているのは、もはや地方への愛着や郷土心ではありません。
高額な返礼品を目当てにした「節税テクニック」であり、それを支えるビジネスモデルです。
ふるさと納税をしている皆さんの寄付額の半分は、そもそも自治体に届いてすらいないのです。
ふるさと納税は、地方創生などという美名のもとに、自治体に不要で有害な競争を強いる制度です。
緊縮財政下にあって、「自助」「自治」を盾に、国が本来果たすべき財源配分の責任を放棄し、そのしわ寄せを自治体間の争いにすり替えた制度でもあります。
儲かっているのは、各地に入り込んだふるさと納税関連ビジネスだけです。
都市部の財源が吸い取られ、地方には中抜きされたわずかな資金しか残らず、行政は細々と継続されるばかりです。
この構図のどこに「地域振興」の理念が残されているのでしょうか。
ふるさと納税はもはや制度としての意義を失っています。
地方のためにも、都市のためにも、そして何より納税者の良識のためにも、この制度はただちに廃止すべきです。