備えなければ、飢えるのは私たち日本国民だ

備えなければ、飢えるのは私たち日本国民だ

近年、世界における紛争の様相が変わりつつあります。

従来の戦闘行為に加えて、「食糧」を兵器として用いる戦術がますます顕在化しています。

飢餓を意図的に引き起こし、相手国の民衆を無力化する戦術は、まぎれもない戦争手段であり、今や核兵器に匹敵する非人道的な攻撃手段と化しています。

たとえば、シリア内戦においては、政府が反体制派の支配地域への食糧供給を遮断し、民間人を飢餓に追い込む作戦を展開しました。

イエメンでは、対立勢力が互いの農業生産を破壊し、人道支援の妨害すら辞さない状況にあります。

ロシアによるウクライナ侵攻では、穀倉地帯の爆撃や黒海封鎖などによって、世界的な穀物供給に大きな混乱が生じました。

このように、食糧を戦略物資として意図的に操作する「食糧の兵器化」は、今後さらに拡大する可能性があります。

相互依存が進んだ現代のグローバル経済においては、特定の地域での農業破壊が、遠く離れた国々の食料安全保障にも深刻な影響を及ぼすのです。

では、こうした時代において、我が国はどう備えるべきでしょうか。

第一に、事実上、今なお続いている「減反政策」を、早急に廃止すべきです。

減反政策は、コメの生産を意図的に抑制する制度であり、結果として農家の営農意欲を削ぎ、日本の農業生産能力を著しく低下させてきました。

本来、国家が最も力を注ぐべきは、主食の安定供給体制の強化であるはずです。

第二に、政府によるコメの備蓄制度についても、現在主流の「玄米備蓄」から、かつての「籾米備蓄」へと転換する必要があります。

玄米は、保存が難しく、虫害や品質劣化のリスクが高いのに対し、籾米は長期保存に適し、必要に応じて脱穀・精米することで食糧として利用できるばかりか、翌年の作付けに用いる種籾としても活用できます。

こうした籾米の備蓄体制を構築しておけば、有事の際にも我が国の主食供給体制は揺るがず、食料自給率の向上と食料安全保障の強化を同時に実現することができるのです。

もちろん、農家に増産を求める以上、それを可能にする環境整備も必要です。

農家の方々が安心して耕作に従事できるよう、所得補償および価格補償などの支援制度を確立し、稲作が再び将来を託すに足る産業となるよう政策転換を図らなければなりません。

また、流通する精米と国家備蓄用の籾米を明確に分けて管理することで、平時には需給を調整して価格の安定を図り、有事には籾米を速やかに主食や種籾として活用できるよう備えることが肝要です。

さらに、コメは単なる炭水化物源ではありません。

玄米のまま食すれば、たんぱく質・ビタミン・ミネラル・食物繊維などをバランスよく含む、極めて栄養価の高い完全食といえます。

麦やジャガイモ、トウモロコシといった他の主食とは一線を画す、日本の誇るべき食文化の要なのです。

日本の農政の誤りを正し、農業に再び光をあてていくことが求められます。

それは単なる経済政策ではなく、真の意味での国家安全保障政策にほかなりません。

減反政策の廃止、籾米備蓄の復活、そして所得補償もしくは価格補償による増産支援体制の構築、この三本柱を軸に、我が国は「飢えない国」「備える国」として、自立した国の道を歩まなければなりません。

食糧を武器にされる時代だからこそ、私たちは「食」をもって、自らの国を守るのです。