失われた民意_行政の不備で投票が無効に

失われた民意_行政の不備で投票が無効に

7月20日に行われた参議院選挙で、東京都豊島区において不在者投票36人分が集計されず無効となる重大な事務不備が発覚しました。

選挙制度に基づき投じられた票が、行政の処理ミスによって無効となった事態は、民主主義の根幹を揺るがす深刻な問題であり、我が国の選挙事務が先進国にふさわしい水準にあるのか、改めて検証する必要があると考えます。

ご承知のとおり、不在者投票とは、選挙期間中に旅行や入院などの事情で住民票のある自治体の投票所に行くことができない有権者が、滞在先から郵便等で投票する制度です。

今回の事案では、介護施設などから郵送された不在者投票36人分を豊島区役所の宿直職員が受け取りましたが、この職員が選挙管理委員会への連絡や引き継ぎを行わず、投票用紙は他の郵便物とともに事務室に保管されたままになっていたとのことです。

翌21日、別の職員がその不在者投票の郵便物に気づき、選挙管理委員会に連絡しましたが、すでに集計が終了していたため、選挙区と比例代表の票、合わせて72票が無効となりました。

豊島区は謝罪し再発防止を表明していますが、制度に基づいて投じられた一票が、行政の不備によって無効となった事実は、単なるミスと片付けることはできません。

このような事態は、民主主義への信頼そのものを根底から損なう重大な問題です。

しかも、こうした事務手続きの不備による投票の無効化は、今回が初めてではありません。

たとえば、不在者投票証明書の封筒を誤って開封してしまったケースや、立会人が不在のまま投票が行われたために無効と判断された例など、過去にも同様の事例が報告されています。

一度、誤って(あるいは意図的に)開封された場合には、投票内容の改ざんや用紙の破棄といった不正の疑念が生じる可能性も否定できません。

また、投票所の運営においても、有権者の権利を侵害するような事態が散見されます。

過去には、投票日の午後8時より前に投票記載台を片付け始め、その結果、来場者が投票用紙に記入できなくなった事例も報告されています。

甲賀市の選挙ミス事例集には、投票所閉鎖時刻前に記載台を撤去してしまい、来場者が事務机で投票用紙を記入せざるを得なかったという報告も挙げられています。

これらの事例は、制度上は保障されている有権者の投票機会が、現場では十分に担保されていなかった実情を示しています。

投票は、国民が政治に参加する最も基本的かつ重要な権利です。

一票一票を、制度と運用の両面で厳格かつ誠実に扱うことは、民主主義国家としての当然の責務です。

しかし現実には、杜撰な事務処理により、有権者の意思が軽視される事例が後を絶ちません。

私は、こうした不備やミスが頻発する背景には、制度設計や職員教育の問題に加え、行政組織そのものの「マンパワーの劣化」があるのではないかと考えています。

川崎市を含め、全国の自治体では、平成期の行政改革により大幅な人員削減が行われてきました。

その結果、多くの自治体で現場の職員数が減少し、業務が過重化するなか、組織の余力やチェック機能の低下はすでに各地で顕在化しています。

本来であれば複数人で確認すべき作業が限られた人員で処理され、結果として重大なミスを見逃してしまう。こうした状況こそが、今回のような不手際を招いているのではないでしょうか。

こうした事態が繰り返されていること自体、選挙制度がもはや正常に機能していない兆候ではないかと危惧します。

制度運用の形骸化や組織の疲弊がこのまま進めば、いずれ本格的な民主主義の機能不全に陥りかねない状況です。

この問題を単なる人的ミスで済ませるのではなく、全国の自治体が「他人事」とせず、制度設計・職員教育・人員体制のすべて(非正規職員の正規化を含む)を、根本から見直すべきです。

民主主義の根幹を支えるこの信頼を損なうような失態は、決して看過されるべきではありません。