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報道されないことの恩恵

地方議会はメディアの注目度が国政に比べて極端に低い。
ワイドショーデモクラシーの高まりで、国民の多くは例えば大臣のスキャンダルについては詳しく知っていても、各地方自治体が直面している本質的な課題(アジェンダ)は何なのかなどについて知る人はほとんどおられません。
むろん国民に罪はなく、情報を発信しきれない私ども議員たち、そして視聴率至上主義に徹する商人メディアの姿勢にこそ問題があります。
例えば、地方支局が報道するのは、もっぱら行政が記者クラブに投げ込むいわゆる「報道向け案件」が主で、あとはせいぜい行政職員や議員の不祥事ぐらいです。
かつてはそうでもなかったのですが、この数年は実に顕著です。
その意味で、マスコミの取材能力はこの数年で明らかに低下していることを痛感します。
また、地方議会も地方議会で、不祥事さえ起こさなければ報道されないことをいいことに、既に手垢だらけの終わった議論(既に間違いが証明されている議論)を平然と主張し続けておられる者も少なくありません。
一昨日、どうしても欠かせぬ義理があって、とある「政治塾」に参加しました。
そこで、某自治体の議員さんのご高説を聞かされるはめになったのですが、そのかたは27歳で初当選され、ことしで18年目をむかえるベテランらしく、議員としてのライフワークは「財政再建」なのだそうです。
その時点で聴く気を失せてしまったのですが、それでも拷問を受ける覚悟でなんとか最後まで傾聴しました。
案の定、「私の自治体は税収が減りました。だからこの18年間、議員としてひたすら歳出を減らすように行政に訴え続けてきました」というお話でした。
私とはまったくの逆で、私は議会で「行政が歳出を減らすと市内GDP(市民の収入)が減ってしまい、余計に税収が減ってしまう」ことを訴え続けております。
そもそも、税収落ち込みの最大の要因はデフレです。
そのデフレを脱却するために行政は何をすべきかを考えようとせず、ひたすら家計簿の発想で「緊縮」を訴えておられるわけです。
この議員さんにかぎらず、川崎市議会にもこの種の議員さんは数多おられます。
彼ら彼女らは二言目には「民間でできるものは民間で…」「民間のノウハウを取り入れて…」「民間の創造性を活かして…」みたいに言う。
いわゆるネオリベラリズム(新自由主義)ですね。
ネオリベラリストたちは、イノベーションと価値創造の主要な原動力は「民間」にこそある、と宗教的に信じ切っておられます。
宗教的に信じ切っているいるがために、どんなに理を尽くしても彼ら彼女らを説得することは実に困難です。
例えば、インターネット、医薬品、原子力、再生可能エネルギー、ナノテクなどだけをとっても、これらすべては政府など公的機関がリスクを負って行った膨大な投資のおかげで具現化したテクノロジーでありイノベーションです。
そもそも民間企業による財とサービスの生産は、国家や行政が整備する各種インフラ(ハード・ソフト)の上においてこそ成立します。
行政が整備するインフラがなければ民間企業は力を発揮できません。
そうしたインフラには不断のメンテナス費用が求められます。
その費用もまたGDPとなり、フロー効果、ストック効果を合わせて税収の源泉となります。
にもかかわらず、彼ら彼女らはインフラ整備を「選択と集中」の名のもとに切り捨てます。
私に言わせますと前述の議員さんは、残念ながら18年間にわたって、まちがったことをライフワークとして主張され続けてきたことになります。
それでも氏が選挙で当選され続けておられるのは、メディアが報道してくれないお陰だからなのでしょうか。
2020/11/09 |