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新型コロナウイルスと北朝鮮リスク

新型コロナウイルスが世界に拡散して以来、感染者は6月21日の段階で既に871.8万人となり、死亡者は46万人を超えました。
北朝鮮よりも医療水準や経済水準が高い国々でさえ、この疫学的緊急事態への対処に苦しんでいます。
充分な医療投資が行われてきたとは思えない北朝鮮が、医療と経済の両面においてうまく対応できているとは考えにくい。
おそらく、新型コロナウイルスのアウトブレイクに対し、北朝鮮は世界のいかなる国に比べても脆弱な状態にあるのではないでしょうか。
当初、北朝鮮にとって韓国でのアウトブレイクはそれほど恐れるものではなかったかもしれません。
何しろ韓国との国境線には約250kmにも及ぶ地雷だらけの非武装地帯が存在しており、数十万という兵士が警備しています。
ここから北朝鮮にウイルスが侵入してくることはほぼ不可能です。
しかしながら、反対側の中国との国境線はそうはいきません。
半島の付け根にあたる中国との国境線は約1,500kmに及びますが、そこには数多くの抜け穴が存在しているらしく、このあたりでは中朝双方の住民たちが製品を密輸し合って生き延びています。
即ち、北朝鮮への新型コロナウイルスの侵入リスクは、中朝国境線のほうがはるかに高い。
現に、国境を挟んで接する中国遼寧省や吉林省では多くの感染者が発生しています。
医療システムを含め、公衆衛生インフラがまともに整備されておらず、おそらくは医薬品も医療機器も不足し、そのうえ人口の4割以上が栄養失調状態にあるともいわれる北朝鮮に感染が広がればどうなるか。
その帰結は想像に難くない。
因みに、FAO(国連食料農業機関)の統計によれば、北朝鮮における一人あたりのカロリー供給量は1日2,094kcalで統計をとった174カ国中164位(2013年)という低さです。
それに、現在の我が国がそうであるように、感染拡大を物理的に封じ込めようとすれば、それに必要な措置をとることによって必ず経済活動に大きなダメージを被ります。
むろん北朝鮮も例外ではない。
もともと北朝鮮は各種の制裁によって経済的困窮が続いています。
ここ数年、国連は北朝鮮からの輸出のほぼ9割を制裁対象とし、北朝鮮へのエネルギー供給をも阻止してきました。
それでも北朝鮮経済がここまでやってこられたのは、国内の闇市場が機能してきたからでしょう。
しかしながら、今回の新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するために頼みの貿易パートナーである中国やロシアとの貿易も閉ざされていることでしょうから、闇市場においても主要穀物や燃料などの市場価格が高騰している可能性があります。
だとすれば、民衆の体制への不満圧力は日に日に高まっているのではないでしょうか。
こうした新型コロナウイルス問題を含めた経済的困窮が、ここにきて金一族政権が外交的にも軍事的にも強硬路線で臨んでいる最大の理由かと思われます。
ひょっとすると、そこに金正恩氏の健康状態の悪化問題等もあって体制移行の動きが加わり政権基盤が脆弱化しているのかもしれません。
経済と地政学は表裏一体です。
今後、平壌政府がどのような行動に打って出るのか予断を許しません。
因みに、平壌政府がどんな危機に陥っても、かつてのように中国が北朝鮮に愛の手をさしのべることはないでしょう。
毛沢東時代の中国とはことなり、現在の習近平中国は北朝鮮を同盟国とは思っていません。
仮に半島有事が発生したとき、中国は何らかの形で介入してくるはずですが、とはいえそれは北朝鮮を救うための介入ではなく、中国の利益を確保するための介入となることでしょう。
一方、対する米国もまた、どこまで半島有事に介入し、その影響力を残すのかを決めかねている様子です。
新型コロナウイルス問題と、それに伴う経済問題が、我が国の安全保障をふくめ極東アジアの地政学リスクを高めています。
2020/06/21 |