抽象論に終始した「所信表明演説」

抽象論に終始した「所信表明演説」

きのう衆参両院で岸田総理の所信表明演説が行われました。

総裁選の際に岸田さんは「新しい資本主義を構築して国民の所得を増やすこと」を掲げておられましたので、今回の所信表明でどのような具体案が出てくるのか私は大いに期待をしていたところです。

ところが所信表明で「新しい」という言葉が使われたのは、①新しい社会、②新しい学び、③新しい働き方、④新しい日常、⑤新しい時代、の五つだけで、残念ながら「新しい資本主義」についての言及はありませんでした。

所得についても「地方の所得を増やし…」と言うだけでした。

なぜ地方に住む人の所得だけが対象なのでしょうか。

仮にそうであるのなら「地方」の定義を明確にしてくれないと…

そもそも本来は地方だけでなく、全ての日本国民の所得を引き上げ、中間所得層を分厚くすることが目的でなければならないはずです。

総理は余程に自信がないのか、「所得倍増」とも言えない。

都市部と地方との格差縮小を言いたいのかもしれませんが、であるならばまず第一に均衡ある国土発展のための交通インフラを整備すべきです。

そして国民の所得、とりわけ実質賃金を引き上げるためには、何よりもデフレ経済(総需要不足経済)を脱却すること、及び構造改革によって破壊された雇用規制を再構築することが求められます。

しかし、きのうの所信表明では「デフレ」という言葉すらありませんでした。

デフレ経済を脱却するには、政府部門が収支の赤字を拡大しなければなりません。

事業規模の大きい経済対策を打ったところで、政府部門が収支の赤字を拡大しないかぎり総需要は絶対に増えない。

政府部門の赤字がなければ、民間部門が黒字をつくることができないのは物理的な事実です。

ことし7月に内閣府が発表した『経済財政運営と改革の基本方針』では、国・地方を合わせた基礎的財政収支(PB)を2025年度までに黒字化させる目標が示されており、この愚かなる目標があるかぎり政府は収支赤字を拡大することができません。

これがいわゆる「PB黒字化目標」です。

岸田総理は、きのうの所信表明演説でも未だ「PB黒字化目標」を凍結していません。

終始、抽象論に徹した所信表明演説に大いなる不安を覚えます。