米国のトランプ政権が仕掛ける相互関税は、それ自体が目的なのではなく、彼らがある目的を達成するための手段(交渉材料)であることは疑いの余地がありません。
その目的とは、グローバル・インバランスの是正にあるものと考えます。
上のグラフのとおり、経常収支の一つである貿易収支の推移をみますと、米国が世界の貿易赤字をほぼ一国で引き受けてきたことがよくわかります。
とりわけ2000年以降、米国の赤字が拡大した反対側で大いに黒字を拡大し利を食らったのは中国です。
中国のように輸出主導で経済成長を実現させる国があるということは、その一方で輸入を引き受ける国が存在するわけですが、そこにトランプ政権が中国に対してより厳しい関税率を提示する所以があります。
とはいえ、中国をWTO(世界貿易機関)に加盟させたのは米国自身ですが…
中国に限らず日本やドイツでもそうですが、国境を超えたヒト、モノ、カネの移動の自由を最大化させるグローバリズム経済においては、低賃金労働者を使い人件費を抑制した企業ほど競争力をもつことになります。
例えばこの30年間、デフレにより国内需要の低迷が続いた日本では、外需に捌け口を求める輸出産業を中心に派遣社員が増えたのはそのためです。
賃金が伸びなければ内需も伸びませんので、経済はさらにデフレ化して外需に依存するようになります。
一方、輸入を引き受けてきた米国でも、自らが主導してきたグローバリズム経済によって国内の賃金は低迷し続け格差を拡大させてしまいました。
いつも言うように、グローバリズム経済で最も打撃を受けるのは先進国の労働者であり、それまで中間所得層だった人たちが下層所得層に追い込まれていったのです。
米国の場合はそれに加えて「ファイナンシャライゼーション」が進み、行き過ぎた金融規制の緩和によって金融部門が肥大化していきました。
これにより1980年代以降の米国経済は、資産バブルを起こしては成長し、バブルが崩壊すると不況に陥り、再び資産バブルを起こすという不安定な経済循環をつくりだしました。
結果、国内の労働賃金が上がらずとも、資産バブルで儲けた人たちが国内消費を支えるという歪な経済構造となります。
また、資産バブルという幻想が、米国国民に借金をしてまで消費を拡大することを可能にさせました。
それが顕著に現れたのが2003年以降に発生した米国の住宅バブル、いわゆるサブプライムローン問題であり、2008年のリーマン・ショックでした。
このように、グローバリズムは世界に二種類の国をもたらしました。
一つは中国のように輸出で成長する国。
もうひとつは米国のように債務で成長する国です。
ただ、輸出で成長する国であろうが、債務で成長する国であろうが、ともに共通するのは労働賃金が低いことです。
それに、輸出で成長する国があるということは、その反対側で輸入を引き受ける国があるわけで、それを引き受けてきたのが米国であり、米国は資産バブル主導(債務)によって各国の輸出を引き受けてきたのです。
リーマン・ショックなど、米国で資産バブルが弾けると世界全体が不況になるのは、こうした理屈からです。
米国でバブルが弾けると、輸出主導の国々は政府による財政出動で国内景気を支えます。(日本以外は…)
リーマン・ショックの際の中国もそうでした。
ところが中国では財政出動をした結果、不動産バブルを引き起こし、2016年にバブルが崩壊してしまいました。
2021年には恒大集団が債務不履行に陥っています。
バブル崩壊により内需が拡大できなくなった中国は、さらに輸出で経済を支えざるを得なくなり、米国の貿易赤字を拡大させました。
上のグラフをみてのとおり、2019年以降、中国の貿易収支の黒字はさらに拡大しています。
中国から安価な輸入品が流れ込んでくるかぎり、米国の労働賃金は一向に上がらない。
そうした不満が、トランプ大統領を出現させたのです。
ゆえに、トランプ政権は、グローバリズムがもたらしたグローバル・インバランスを是正することで「Make America Great Again」を実現しようとしているものと拝察します。
ただ、トランプ米大統領の政策が、一貫性に欠けているのも事実です。